最高裁判所第三小法廷 平成2年(行ツ)215号 判決 1991年4月02日
横浜市緑区すすき野三丁目三番地三-一五-一〇四
上告人
杉山賢一
東京都千代田区霞が関三丁目四番三号
被上告人
特許庁長官 植松敏
右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第八三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年九月二五日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂上壽夫 裁判官 貞家克己 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)
第一章 総論
一 上告理由第一点
原判決は、実用新案法(以下、単に法ともいう)第三条の解釈・適用を誤り、右は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
即ち、実用新案法第三条は、
<1> 産業上利用することができる考案であって物品の形状、構造又は組合わせに係るものをした者は、次に掲げる考案を除き、その考案について実用新案登録を受けることができる。
一 実用新案登録出願前に日本国内において公然知られた考案
二 実用新案登録出願前に日本国内において公然実施された考案
三 実用新案登録出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された考案
<2> 実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたときは、その考案については、同項の規定にかかわらず実用新案登録を受けることができない
と規定しているところ、原判決は、右の<2>項にいわゆる『実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたとき』の解釈・適用を誤り、本願考案についてこれを不当に適用して、上告人の請求を棄却したものである。右法令違背が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
二 上告理由第二点
原判決は、実用新案法第一五条、同法第一三条により準用される特許法第五一条の解釈・適用について、判決に影響を及ぼすことが明らかな誤りを犯している。
即ち、実用新案法第一五条第一項は、
実用新案権の存続期間は、出願公告の日から一〇年をもって終了する。ただし
実用新案登録出願の日より一五年をこえることができない
とし、
(平成二年(行ツ)第二一五号 上告人 杉山賢一)
上告人の上告理由
目次
第一章 総論 一頁
一 上告理由第一点 一頁
二 上告理由第二点 二頁
三 上告理由第三点 三頁
四 上告理由第四点 五頁
第二章 経過 六頁
一 拒絶査定 六頁
二 審決 六頁
三 原判決 八頁
第三章 理由の各論 八頁
第一節 通則 九頁
一 通則Ⅰ 加熱技術の一般的通則と本願考案の概要とそれらの比較 九頁
二 通則Ⅱ サウナを含む熱気浴の健康効果と熱気浴装置の具備すべき基本的要件 一七頁
三 通則Ⅲ 特許庁が現実になした実用新案登録査定に於て技術思想の創作と認定したるガイドラインの考察 三五頁
第二節 上告理由第一点について 四八頁
第三節 上告理由第二点について 七二頁
第四節 上告理由第三点について 七五頁
第五節 上告理由第四点について 八一頁
第四章 総括 九九頁
(末尾添付書類)
一 提出済書類一覧表
二 付表第一 サウナに於る加熱方式の体系的分類表
三 付表第二 慣用的形態のストープ(対流ヒーターと同じ加熱原理)による加熱とそれにより生ずる空気の移動即ち『対流』(第四図)、及び赤外線照射とその特質(第五図)
四 付表第三 サウナの公用技術、引用例考案技術、本願考案技術の三者の対比と考案に対する審査基準実例
同法第一三条により準用される特許法第五一条第一項は、
審査官は特許出願について拒絶の理由を発見しないときは、出願公告をなすべき旨の決定をしなければならない
としているが、本件は昭和五五年六月二五日に出願し、その後約八年(審査請求から約六年)を経た昭和六三年二月二六日に至って拒絶査定に及んだ事案であるところ、出願審査にこのような長期間を要したこと自体法の趣旨に反することであるが、それにも増して、長期間を経た結果、被上告人において登録を拒絶し、更に、これに対する審判請求について「請求は成り立たない」旨審決したことは、右各法の趣旨からして、実用新案登録制度を否定し、審査・不服申し立て(審決)制度を無にするものであって、拒絶査定及びこれを認めた審決自体当然に無効とされるべきものであるにもかかわらず、原判決は、右各法の解釈を誤り、これを看過して被上告人の請求を棄却したものである。そして、右法令違背が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
三 上告理由第三点
原判決は、「本願考案と引用例記載の考案とは、サウナ本体に、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂であり、熱線として赤外線を利用するものである点で一致し、ただ、本願考案においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対し、引用例記載の考案においては自然対流によるものである点で相違するものであることは当事者間に争いがない」として、「右相違点についての審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は認められない」とした。しかしながら、そもそも「本願考案と引用例記載の考案とは、サウナ本体に、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂である点で一致する」との点については当事者間に争いがあり、又、本願考案の新規性・進歩性は明らかに認められるのであって、相違点についての審決の判断の誤りも明白である。原判決は、上告人の提出した詳細なる各書面記載の主張を無視し、かつ、その証拠を看過して、審理を尽くさずしてなした判決であり、理由不備、審理不尽の違法が存し、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
四 上告理由第四点
原判決において、「従来の熱気浴装置において、熱空気の循環を自然対流によっていると室内の空気の動きは緩慢となり、入浴者の身体表面の発汗蒸発作用が不充分となるという問題点があったことは前記1に認定したとおりであるところ、右課題を解決するには、加熱空気の対流を強制的に行えばよい」とし、かつ、本願考案が、結局のところ、右の「加熱空気の対流を強制的に行う」だけの考案に過ぎないとしているのは、全く証拠に基づかない、かつ、自然科学の法則にすら反する不当な認定であり、右は、自由心証主義の限度を逸脱した訴訟手続の法令違背、理由不備、審理不尽の違法な判決というべく、これらの違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
以上の各上告理由の詳細は、本理由書第三章理由の各論において述べる。
(なお、上告人は、原審において多数の文書を種々の形で提出しているが、これら原判決に於て一顧だにされず葬り去られんとした各文書は、別紙提出済書類一覧表記載のとおりであり、以下、本理由書においてこれを引用する必要が存する場合、同表引用文書記号欄記載の記号によって、「引用文書記号H」などとして引用する。)
第二章 経過
一 拒絶査定
被上告人は、昭和六三年二月二六日、本件出願に対する拒絶査定をなしたが、その理由とするところは、「公知(実公昭五二-四四二一〇号)である赤外線の輻射熱と対流熱を利用した熱気浴装置において、その対流熱の供給源として、周知である電気式熱気強制圧送循環式のものを用いてみる程度のことは当業者にとってきわめて容易に想到しえるものと認められる」こと、及び、「かつそのことにより格別優れた効果を奏したものと認められない」ことである。
二 審決
被上告人は、平成二年二月一日、右拒絶査定に対する審判請求事件につき請求不成立との審決をなした。その理由とするところは、
「原査定の拒絶理由に引用された実公昭五二-四四二一〇号公報には、サウナ風呂本体の後方下部に対流用ヒーターと背面に反射板を有する足元照射用ヒーターを設けた加熱装置を配設してなるサウナ風呂が記載されており、ヒーターとして赤外線ヒーターを用いる旨の記載もある。そこで本願考案と引用例の技術とを対比して検討すると、両者は、サウナ本体に熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設えたサウナ風呂である点で一致しており、熱線として赤外線を利用する点においても変わるところがない。ただ本願発明においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対して、引用例においては自然対流による点で両者は互いに相違する。ところで一般に熱空気循環型サウナにおいて、循環をファンモーターにより強制的に行なうことは周知の技術であるから、引用例において対流用ヒーターによって暖められた空気を圧送する程度のことは、当業者ならば格別創意を要することではなく、また、それによって、予測できないすぐれた効果を奏したとも認められない。してみると、本願考案は、引用例に記載の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものというべきであるから実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないものである」
とのことである。
三 原判決
原判決は、なんら正当な証拠に基づかず、かつ、実用新案法、民事訴訟法等関係各法令に違背し、自然科学の法則にすら反して、右審決の理由を鵜呑みにし、そのまま踏襲しこれを是認しただけに過ぎない。
第三章 理由の各論
本件はサウナという特殊機器の技術的係争が本質であるが、本来これら技術を管理すべき立場にある『特許庁』にとってはミクロに過ぎ、技術的知識が乏しく、故意か過失か不明であるが重要ボイントの錯誤、誤認が反対の結論を導き出した形となり、また行政の過ちを正すべき司法に行政依存の安易感が見られ、その誤りを正すことなく無条件にて支持して文字通りの拙速を招いたことによるものである。
よって、以上の事柄を十分御理解頂くため、まず初めに、『サウナ』という特殊の機器の特質等の技術事項を『一般通則』として通則Ⅰ及びⅡに、又、通則Ⅲに《特許庁の現実になした実用新案登録査定に於て『技術思想の創作』と認定したる『ガイドライン』の考察》として御説明申上げ、着実に基本概念の御理解を得、その上にて前章の各上告理由につき具体的に御説明を進めて参る形を執らせて頂く次第である。
第一節 通則
一 通則Ⅰ《加熱技術の一般的通則と本願考案の概要とそれらの比較》
1 サウナ風呂は入浴者の身体に多量の熱エネルギーを与えて、身体を構成する諸器官、組織等の細胞の働きの増加、代謝の亢進、生命活動の活性化など一連の現象を誘発することで健康の増進をはかる目的に行なわれるもので、この目的に最適の具備要件は、
<1> 人体与熱に有効なる熱分布(熱条件)
<2> 生命活動の変化に適応する環境の提供(汗条件)
の二つである。
2 この入浴者身体に熱エネルギーを供給するメカニズムとしては、
<1> 単純に熱エネルギーのみを供給する(単一機能)
(この場合、内部に空気があるときは対流を生ずる)
<2> 中の空気に熱と指向性のある流動を生起させる運動との両エネルギーを供給する(重合機能)
(この場合、内部の空気の対流生起を否定、抑制、拘束等する)
の二つがある。
3 エネルギー供給のシステムとしては、
<1> 前記の単一機能又は重合機能のどちらか一方のメカニズムで供給する単純供給システム
<2> 単一、重合の両機能によって供給する両者を併合する複合供給システムの二つがある。
4 熱源機構より人体への熱エネルギー供給の経路即ち与熱法としては、
<1> 熱線照射などで直接供給する直接与熱法
<2> 空気又は水蒸気などを媒体として与熱する間接与熱法
<3> 間接与熱法を主としてこれに直接与熱法を加える直間両与熱法
の二つがある。(末尾添付の「付表第一」参照)
5 現在、サウナの加熱器具としては、
<1> 赤外線ヒーター又は鉱石・・・・赤外線を発生し輻射熱を送るもの
<2> ストーブ又は対流ヒーター・・・空気を加熱するもの
<3> 循環加熱ヒーター・・・・・・・空気に熱と指向性運動を生起させるものなどがあり、
<1> は、単一機能、単純供給、直接与熱法
<2> は、単一機能、単純供給、間接与熱法
<3> は、重合機能、単純供給、間接与熱法
に分類される。
6 右各加熱器具を各単独で使用する場合の効用等は以下のとおりである。
<1> 赤外線ヒーター
熱エネルギー消費は少ないが被照射面が人体のごとく凸凹があるとバラつきが生ずる。
<2> ストーブ(又は対流ヒーター)
加熱された空気が膨張して比重を減ずるため対流現象を生じ、上方に比重の軽い高温空気が、下方に比重の重い低温空気が集まるので、上高下低の熱分布となる。
<3> 循環加熱ヒーター
加熱された空気は指向性をもつ運動エルギーを与えられ必要スペースに誘導できるが、高温空気の軽比重という本質は変えられないため、やがて上方に上昇する。熱分布は<2>ほど上高下低ではないが、完全とはいいがたい。
7 以上の三種類の加熱器具を個々に使用すると一長一短があるので、これを組合わせて使う技術がある。すなわち、次の二つである。
<1> 公用技術・赤外線発生物質の鉱石とストーブとの組合わせ
<2> 公知技術・赤外線ヒーターと対流ヒーターとの組合わせ
(この<2>が拒絶査定、審決、原判決に各引用の昭和五二年実用新案出願公告第四四二一〇号である)
(末尾添付の「付表第三」参照)
8 本願考案は、前記三種の加熱器具の組合わせであり、右7の<1>、<2>とは異なった別の組合わせである。
その詳細は、引用文書記号H(原審原告平成二年六月一二付補正書第八-九頁第末行より第八-一四頁第五行目)等において主張しているが、概略次のとおりである。
本願考案は、
本質的に熱効率は高いが実用上幾多の欠陥を避け難い『赤外線』を照射する機構を設けて空気を伝熱の媒体とすることなく直接入浴利用者の身体表面の多くの部分に照射することにより、このサウナ装置内に供給すべき熱エネルギーのかなり多くの部分を第一次的熱エネルギーとして供与を行ない、
本質的に空気を伝熱の媒体とする形の為熱効率の点でやや難を免かれない熱気強制圧送循環機構によってサウナ室内空気に対して、
<1> このサウナ室に供給すべき熱エネルギーの残りの一部を、該機構中の空気加熱ヒーターにより第二次的熱エネルギーとして必要に応じ随時供与し、
<2> 併せて室内温度分布を意図的に調整設定するとともに入浴者身体表面に於る発汗蒸発促進を図る目的を以て指向性と定常性を有する空気の流動を促す為の運動エネルギーの常時供給とを行なう。
これは、在来常識的に使用されてきた単純な空気加熱ヒーター(いわゆるサウナストーブ、サウナヒーター等)が、空気加熱に際し生起又は現象化する『対流』の存在、及びそれによる上高下低の温度分布を否定するものである。
以上のとおり本願考案は、赤外線照射機構と熱気強制圧送循環機構との両機構を、同時に作動し両機構固有の欠陥を相互補完し、且つ相乗効果を高め得るごとき構造機能を有するサウナの構成に関する考案を創作したものである。
これをエネルギー供給のメカニズムで見れば、
<1> 単一機能メカニズムの赤外線照射機構
<2> 重合機能メカニズムの空気に熱と運動との両エネルギーを同時に供給する機構とを併用したものであり、二つのメカニズムを活用することによって、『対流現象』と『熱の上高下低分布』という欠陥を抑制する等の相乗効果をあげた全く新しいエネルギー供給システムである『複合供給システム』をはじめて創案したものである。従って、実用新案法第一条にいう『物品の形状、構造または組合せに関わる考案』、即ち同第二条に定義された『自然法則を利用した技術的思想の創作』というに相応しい物品の構造または組合せであるというに十分である。『物品』というからには全て『公然使用されている現存の具象物同士の新規なる組合せ』であることは論をまたない。
このシステムのメリットとしては、
<1> サウナ室内の熱のバラツキ、とくに生理的に好ましくない上高下低の温度分布の充分なる改善を行ない、入浴の安全且つ有効なる熱利用を可能とする(熱条件の充足)
<2> 自律的体温調節機能の体表面よりの発汗蒸発促進(汗条件の充足)
<3> 消費エネルギーの節減
<4> サウナ室構造部材の簡素化による経済性等が得られ、これ迄兎角『熱過ぎてゆっくり入っていられない』、『頭ばかり熱くて足腰は暖まらない』など一部のマニアを除く一般大衆や医学者などの不評が多く、その為熱による素晴らしい効果が人体の生命活動を増進して顕著なる健康効果をあげると知られながらその利用を躊躇していた広い層の人々・・・・なかでも運動不足や老化或いはストレスなどに悩む多くの半健康人など健康条件に恵まれない人々を含めて・・・・に特に軽視または誤認されてきていた発汗蒸発体温調節機能を積極的に促す機能強化により容易に『安全で快適なる熱気浴』提供の機会を増加拡大することは明らかで、『健康指向時代』に相応しいサウナ浴装置に関するものとして高度な成果を具現し近来稀なる優れた『技術思想の創作』、『考案』として十分評価できる。
9 前記7で述べた「公用技術」、「公知技術」と「本願考案」などを整理して比較すれば、末尾添付の「付表第三」のとおりである。
「考案」とは、公然知られ、実用されている実在の「物品」の組合わせに係る新しい組合せであり、本質的にはその組合せがこれまでの「公知」、「公用」の組合せとは別の効用があれば良いのであろうが、法にはその効用等具備を成立の必須条件とする迄の規定がない。
二 通則Ⅱ
《サウナを含む熱気浴の健康効果と熱気浴装置の具備すべき基本的要件》
1 ひとの身体は六〇兆という天文学的数字の多数の細胞から成立っており、その内五〇〇億もの細胞が毎日生れ代わっている。(代謝回転という)
細胞は生命活動をする原形質などから成立っており、より細かく分けると『ミトコンドリア』とか『リボソーム』など数多くの細胞内構造物(分子の集り)で構成されているし、また、一方同じ様な形や働きの細胞が集って組織を作り、更にその組織がいくつか集ってひとの生命活動の中枢である内臓や其他の器官を構成している。
細胞の分子はいつも活動をしているが、細胞やその組織が良く働いている時は組織の分子活動が活発になり、また細胞や組織が休んでいると分子活動も微弱になってゆく。
細胞が活動をするときは、常に細胞が蓄えているATPというエネルギー物質が分解しADPという物質に変わるときに出されるエネルギーを原動力として消費する。ひとや動物は、食物中の栄養素を分解して身体の一部に合成(同化という)したり、またこの合成物を呼吸によって得た酸素のよって分解(異化という)して生命活動に必要なエネルギーを放出する作用を営む。これら同化と異化の二つの作用を『代謝』といい、同化によって得て蓄えられているリン酸化合物やグリコーゲンと呼吸によって蓄えられている酸素によって異化が行なわれてADPは再びATPに合成されて細胞内のエネルギーが補充される。これらの代謝作用が連続して行なわれる為細胞が活動できるのである。
(第1図参照)
身体のすべての組織や細胞はみな一様に働くように出来ている。
働きに部分的偏りが起こると分子的活動は衰え、代謝回転によって生まれ代ってくる細胞が萎縮したり退化した組織が増えてきて、体調のバランスがくづれてゆく。
《だるい》《元気がない》《頭がおもい》等医学的検査を受けても数字に現われないような変調が出てくる。一般に『半健康』といわれる人の多くはこのような状態で、大体は運動不足など細胞の生命活動不振が原因のようである。そしてそれが更に進むと本当の病気となってゆく。俗に『成人病』といわれるものの多くはこのような誘因からもたらされる。
『健康』ということは、すべての細胞を元気よく保つことにつきる。その為には細胞の分子活動をある時は激しく、又あるときは緩やかにして休養を与えることの繰り返しが必要である。最大限度まで激しく活動させることを反復すると、それに耐える力がついて、能力や持続力が自然に向上する。スタミナアップとかパワーアップとかいわれるものである。
細胞の分子活動能力を高めるには毎日ある時間全身を強く動かす運動もしくはそれと同じような効果のある作動を繰り返して続けることが必要である。このうち『運動』は『筋肉による細胞の活動』であり、それに必要なエネルギーは酸素と栄養素との代謝によって補給され、その過程は第2図のようになる。
2 生命あるものは、つねに『より快適な生活の続くことを希う本能』をもっている。特にひと、中でも文明生活を知ったものは自らの身体の快適性(体力、体調のみでなく、病気予防のための清潔、快い温度湿度環境など)の持続に心がけるようになり、その生活行動の一つとして『浴』の習慣を持つようになった。
初期は神事のなかの水浴で始まりそれが王侯貴族富商の間に広まり、また一部では温泉の発見と利用が行われ、更にはより快適性を求め沸し湯を使う知恵もつき次第に大衆利用の途も開けた。
この過程で、熱帯地域を除いて多くの人は『浴』によって『清潔さ』ばかりでなく『暖』の快適性に目を開かれてきた。
即ち『温浴』により自らの体内組織内の第1図のごとき生命の営み、いわゆる新陳代謝が促進され疲労やストレスの解消を無意識に気づき、その魅力に牽かれ、繰返し利用する生活の知恵を得るにいたった。温泉の発見できない地域では、温浴の始まりは恐らく燃料の少なくてすむ『蒸気浴』であったであろう。
燃料の取得が容易になるにつれ『温湯浴』が盛んになり、また『乾燥熱気浴』も開発された。
何れの方法にても外部から体内に熱を与えて身体固有の代謝活動を旺盛にすることが快適感を呼び健康維持につながることが理解されてきたからに他なら
第1図 生命を維持する代謝活動の概略
<省略>
<1>食物は同化という代謝によって栄養素となって血液で各細胞に送られる
<2>酸素は肺から吸収され血液によって各細胞に送られる
<3>活動に必要なホルモンも分泌されて、血液などで各細胞に送られる
<4>細胞の分子活動に必要なエネルギーは細胞内に貯えられているATPの分解によってまかなう
<5><1>と<2>によって送られた栄養素と酸素の化合(即ち異化)によってエネルギーと副産物をつくる
<6>このエネルギーでATPを合成して細胞内のエネルギー源の補給を行う
<7><5>の化合のとき副産物として発生した炭酸ガスは血液によって肺に運ばれる
<8>肺から炭酸ガスを排出する
<9><4>と<5>で発生したエネルギーの一部は身体内部の熱となって体温維持のために使われる
第2図 運動
<省略>
第3図 サウナ
<省略>
ない。
しかし、方法毎に生じてくるその副作用的現象も自覚反省され、よりよい『浴』を求めてその方法も科学されるようになったことは極めて自然の成行きである。
その流れを考察するといくつかの基礎科学的事理がベースとして浮上してくる。
<1> 『熱』は高温側から低温側に向って移動する。その移動の仕方には基本的に『熱放射』(ふく射)と『熱伝導』(伝達)とがある。
<2> 物体はその温度が上がると膨張(その構成分子の活動が増進し分子間距離が大きく保たれ物体の形状が拡大する)し、比重を減ずる。
<3> 物体が存在すると、空気中でも水中でもその物体の大きさに相当する空気または水を排除しようとする為、その物体により排除された空気又は水の質量に相当する重量だけ軽くなる。即ち、『気圧』または『水圧』が働き浮力を生ずる。
<4> 空気は熱伝導度が低い。即ち、空気同士間では熱の伝わりが悪い。それを利用して微小な空気の集りを散在させたスポンジ状のものが断熱材として一般に使用される。
などであり、例えば・・・
<5> 浴槽に給水し加熱して湯を沸かす。水面近くは熱くなっても底の方の水は暖まっていない。そのためかきまわして平均化して入る。その中に入ると湯のもつ熱が皮膚を通じて身体に伝わり暖かく感ずる。
<6> 部屋を暖房すると上の方は暖かくなっても床に近いところは暖まらないし、冷房した部屋に長く腰掛けていると腰から下が余分に冷えていわゆる冷房病にかかりやすい。
<7> 湯のなかに身体を沈めると、身体が軽くなり爪先立ちになっても爪先への負担は少ない。
<8> 梅雨になると温度はさほど高くなくてもジットリと汗ばんで気持が悪い。TVやラジオの気象情報等でも盛んに『不快指数』という言葉が使われる。それが高いことは、温度湿度も高く『汗の皮膚面蒸発』が悪く自律的機能の体温調節が円滑に行われていない為不快感を抱く人の割合が多いことを意味する。
などはその現象形態である。
本題に戻り、ひとの生活に密着している『温浴』を考えてみよう。
先ず、三つの形態即ち『温湯浴』(温泉浴を含む)、『蒸気浴』、『乾燥熱気浴』(いわゆるサウナ浴)の夫々の特質を述べると、以下のとおりである。
(ア) 『温湯浴』
四三℃前後の湯に入ると湯の持っている熱エネルギーが大きいため身体は早く暖まる。しかし水の圧力は湯に浸っている首から下のほぼ全身にかなりな力となって身体を圧縮するように働き、入浴している人の胴回りで約三センチメートルも縮まるともいわれる。前述のごとく熱によって身体自体の代謝は昂進して各部へ多量の血液を送らなければならないところに、水圧で身体が締め付けられ皮下の血管が圧縮されて増えている抵抗に逆らって血液を送るポンプの心臓にかかる負担は極めて大きくなる。いわゆる『湯づかれ』の現象が避けられず、心臓に不安のある人は要注意である。
しかし、皮膚の洗浄、浮力を利用したリハビリなどのメリットも見逃せない。
ただ、入浴により代謝が昂進し産生熱が増加する為自律的に増加してくる発汗蒸発は湯の中に沈んでいる大部分の皮膚表面では働かない為、熱がこもって長い時間の入浴は無理となる。
(イ) 『蒸気浴』
空気中に水の粒子が『湯気』という形で混在したいわゆる湿り空気の状態である。単位容積当りの水蒸気の持つ熱エネルギーは温湯より少なく水圧の負担もないが、全身の皮膚に接する空気が湿り空気である為、汗の蒸発が阻害され蒸暑さが募り不快指数が高まり心理的ストレスが増す。
肌に感ずるいわゆる体感温度が高い割には周囲空気より受取る熱エネルギーが少なく、その分代謝による健康効果は少なくなる。
(ウ) 『乾燥蒸気浴』(サウナ浴)
空気は水より比重が小さいため暖まりやすい。七〇℃、八〇℃という高温の空気のなかでも身体への熱の影響は柔らかい。また水圧など全然働かないため、身体特に心臓に余分な負担をかけることはない。また、空気中の水分も少ないため発汗蒸発も前二者に比較すると遥かに軽い。しかし、空気は熱の不良導体であるため浴室内の空気を一度に同じように加熱できない。ストーブ、ヒーターなどの加熱体の表面に接触して熱の伝導を受けた部分部分の空気のみが温度を上げる。そして、温度が上がれば比重を減じて周囲の空気より軽くなり浮力を生じ上昇し天井下まで上がる。加熱体の表面の温度、表面に触れている時間等によって加熱された空気も、部分部分に分けてみると必ずしも同一温度にはならない(<注>これを学術的にバイパスファクターという)。
仮りに、八〇℃になったものと、七〇℃にしかなっていないものとでは比重が異なるため前者の方は天井直下まで上がるが後者は前者より重いためその下にしかつけない。
このように熱せられて生じた比重の差によって空気が上昇する現象を『対流』と名付けている。
室内の一部例えば隅にストーブが置かれているとそのストーブのごく近くの周囲と上方から空気の上昇が始まり回りの残っている空気があとを埋めて次に加熱されて上昇する。
一方、上方では比重が軽いものが上に上りそれより重いものは段々下に空気の層の様になって圧しやられて室内の下方に『沈下』してくる。
(末尾添付の付表第二中第四図参照)
即ち、加熱された空気はストーブの極く近い所より上方へ浮上する流れとなるが、下方への空気の移動は前記の浮上空気の部分を除く浴室のほぼ全面積で平均的に沈下してくるものとみなされる。
その他ストーブ、ヒーター等の発熱体から『放射』(赤外線、熱線の照射)がありそのエネルギーの一部が身体の一部にあたり熱に変わる故その熱も受けられる。
即ち、熱源であるストーブやヒーターからの熱は、一方は空気に伝導しその空気が人体表面の皮膚に接することにより身体のなかに伝わり、又熱源から直接赤外線という形で空気中を通過して放射される熱が皮膚表面にあたり、放射線の振動数と皮膚面物質の固有振動数とが同調して共振を起こしてエネルギーが移動して熱となることで熱気浴が行われる。
これらの現象を図解すると、末尾添付の付表第二中第四図、第五図に示すとおりである。
3 サウナ浴では、身体の表面及び肺(身体の全表面積と肺臓内のガス交換・・・・血液中の炭酸ガスを出し吸入空気中の酸素を受け取る交換・・・を行う肺胞の全面積と比較すると後者は前者のなんと四〇倍以上にもなる)を通じて高温の空気から熱を体内に取り入れる。この熱は内臓の器官から末梢の組織に至るまですべての細胞の分子活動を高める。(第三図)
全ての物質分子は『熱』を受取るとその活動を高める、例えば『氷』は〇℃に於て熱を受けると分子活動が盛んになりその熱が一グラム当り約八〇カロリーになると、分子の集りの形態が変化して〇℃の水となり、さらに熱を受け取り続けると更に分子活動が活発になり一〇〇℃の水になりその上に熱の受けると分子活動が一層高まり、それが一グラム当り約五四〇カロリーに達すると分子の集まりの形態が変わり一〇〇℃の水蒸気になることは、『融解』、『融解熱』、『沸騰』、『気化熱』として一般によく知られている所である。
水一グラムは一カロリーの熱で水温を一℃上げる。しかし『融解熱』はその約八〇倍と大量であり、更に『気化熱』はなんとその約五四〇倍に及ぶところに留意されたい。
第三図のように代謝活動が盛んになり、必要な酸素や栄養素の輸送のために、血液循環の高まりが必要となり、その為呼吸も増加し、肺臓や心臓、各動脈、器官の活動が増進して『心肺機能強化』に役立ち、又自律神経が働いて有用なホルモン等の分泌が旺盛になる。
一方、その結果として代謝に伴って内部で産生される内部熱(代謝熱、或いは産生熱ともいわれる)の熱量が著しく増加し体温を高めようとする。身体の中にはその生命活動を維持する為の多くの種類の酵素があり、その作用を調節するため必要な種類のホルモンが分泌されている。これら酵素やホルモンが最も働きやすい温度環境は約三七℃で、ひとは自律的にこの温度に体温を維持しようとする温度調節機能を有している。
この温度調節機能により、身体の周囲が低温で体温を限度以上に奪われて『寒い』と感じている時は身体が自然に震えて、即ち筋肉運動を生じて分子活動を増進して内部産生熱を増やして体温の維持に努める一方、周囲が高温であるとか運動其他の原因(各種温浴も含まれる)で体内の産生熱が多すぎる時は、体内から水分を汗腺を通して皮膚の表面に送出し蒸発させその時奪い去る気化熱として皮膚より多量の熱を奪い去り体温の異常なる上昇を防止する『発汗作用』を行う。
汗は、平常時でも少しづつ出て皮脂とともに皮膚表面を正常に保ったり体温の調節を行っている。従って汗腺の数も熱帯地方の人では多く、寒地民族では少ないし、運動やサウナに入りつけた人は数が多い。同じ温度下では汗腺の数の多い人の汗はめだたないが、汗腺の少ない人はめだつ。
即ち、サウナ浴は細胞分子の生命活動を旺盛にして全身を活き活きとした細胞で満たす事が第一の目的であり、次いで過剰の栄養素(主として脂肪)を代謝(異化)の過程でエネルギー消費(肥満の減量)を行うのが目的で、これらは全く運動と同じ効果をもたらし、その結果『発汗蒸発』を伴う。
発汗は目に見えた形で現われるが決して主役ではなく、細胞の分子活動と代謝の昂進が目的であることを正しく認識しなくてはならない。 因に、『汗』という文字は水を意味するサンズイ偏に干すと書く。科学的知識の発達普及していなかった時代に既に物事や現象の真理を見極めてこのような文字を作り出した先人の知能に敬服を禁じ得ない。
サウナの継続的使用は、心肺機能の強化、血管等循環系の組織正常化、自律神経や内分泌の組織活性化などの健康効果をもたらし、それら効果の累積により体調の健全化、体力の強化、老化速度の低下、成人病防衛体力強化などに結びつく。
薬が病気を直接治すというケースは少なく、多くの場合、薬は体力体調の回復を助けるもの、患者は自身に蘇がえってくる体力、自癒力によって病気を治し、或いは進行を停めるという形をとっているのと同様に、サウナの場合も、温熱による細胞の分子活動と代謝の昂進が、自癒力や防衛体力を強化増大するという総合的な体質改善効果を求めるものであることに異論は無いであろう。
4 このような目的に使用されるサウナ装置の最小限度『具備すべき必要条件』は次のようになる。
(Ⅰ) 熱条件(熱利用の条件)
熱条件(熱利用の条件)とは、身体のどの部分にどのように熱を与えたなら有効且安全かということであり、一般的には、腰から背の部位と下肢部との二部位、即ち主として下半身を重点的に加熱すると効率が高いことが解明されている。
その一方、頭部は人の大切なコンピューターであるため過度な高温(八五℃前後)下におくことは危険であり当然避けなくてはならず、呼吸する空気は低温より或程度高いほうが肺臓内でガス交換の際血液に熱を与えられるから望ましいが、高温に過ぎると息苦しく、効果を得るために必要な時間入浴を続けることができなくなり、無理に続けること自体ストレス増加など別のデメリットを生ずる。
これらを総合すると、室内空気は上半分より下半分の温度が高くなる方が望ましく、悪くても同じ位に保つことが必要であることが容易に理解されよう。
(Ⅱ) 汗条件(生体内組織活動変化に適応・・発汗蒸発促進・・条件)
健康を目的とするものであるだけに、サウナ浴によって起こる組織細胞の活動が活発化することに伴う現象に充分適切に対応し得る環境をつくることは、極めて重要なことである。
即ち、増加する内部産生熱をそのままにしておくと、体温を必要以上に高め、ひとの生命活動に必要な多種類の酵素類の働きを鈍らせて危険な状態を招く。これがいわゆる熱射病或いは日射病などである。体温の異常なる上昇を防止する為、体内から水分が送出され皮膚表面で蒸発し大量の『気化熱』を身体から奪ってゆく。これを『自律的体温調節機能』と名付け、生命の営みの内の重要なものとしている。
そして、発汗蒸発に適する環境とは、乾燥した空気が皮膚表面を適当な速さで普遍的に流れてゆく状態であり、空気は低温であるより高温である方が関係湿度が低くなり蒸発がスムースに行われる。このことは、例えば、真夏の日中でも木蔭で風に吹かれていると汗の蒸発がよく爽やかであり、反対に梅雨時には、低温でもジメジメ蒸暑く汗の蒸発が悪く皮膚にジットリ残って不愉快であることからも容易に理解できよう。
サウナでは、高温空気中に入るとか、または赤外線の照射を受けていると代謝が増加しはじめ、体温調節作用がすぐ働き始め汗が出始める。が、すぐ蒸発して目には見えず、『気化熱』奪取による体温調節が行われるが、更に代謝が昂進し産生熱が増加を続けるにつれ、汗の皮膚面への送り出しが増え、皮膚に接する空気の状態によってその蒸発が制約されるため、『目に見える汗』の形で皮膚表面に残るようになる。
ひとはこれを『身体に役立つ』と誤認し『いい汗をかいた』と自己満足する場合が多いが、大変な誤りであり、『蒸発する汗、即ち発汗する汗はよい汗、タラタラ流れる汗はムダな汗』という事理を正しく認識し、目に見える汗が皮膚面を流れ落ちることが認識されるに至る時間の長さが長いサウナ程すぐれたサウナ、身体によいサウナと評価すべきである。
汗の蒸発の良い環境を提供するサウナがよいサウナで、このように設備されれば利用者は蒸暑さや不快感少なくして熱気浴として有効な時間サウナ室にユックリ滞留出来る。
サウナの本質はひとの健康即ち生命活動に関する設備であり、物品等の乾燥機、加熱庫ではない以上、利用者の安全性が最優先せらるべきで、
『熱条件』
『汗条件』
以上二つの具備条件はいずれも充分満足させるべき最重要課題である。
三 通則Ⅲ
《特許庁が現実になした実用新案登録査定に於て『技術思想の創作』と認定したる『ガイドライン』の考察》
1 審査官、或は審判官は各種の技術情報を収集しそれらをコンピューターにて整理し、個々の事案について検索し、例えば法第三条の一、二、三などの「公知」、「公用」或は内外文献所載の考案については上記のごときマクロ的情報を基に比較的把握しやすい位置にある。
しかしながら、第三条第二項の「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者(通常『当業者』という)が前記各号に掲げる考案に基いてきわめて容易に考案することができた」という規定の判断などいわばミクロ的情報には、本質が特許行政官である以上、専門技術の末端の事象やその動向に疎いのが当然で、特に、特定の業界内の通常の知識を有するものの知識、技術、開発能力などの程度も不明であり、当然出願日前に遡って考案できたかどうかの判断等は神業でなくてはできないことであり、もし仮に該業界以外の第三者が察知し得たとか「かようしかじかである」などと断定することごときことがあれば大変な「嘘」であって、当該業界内に特別の親密な関係が保たれているごとき異例のケース以外は詳しいことの方がおかしいのである。従って、第三条第二項に関しては、現在施行されている公開制度及び公報による公告について、その考案が登録されることによって利害関係を生ずる当業者、即ち利害関係者又はその代理人が異議申立をなし、根拠となるに足る「確実な物的証拠」を提出してその登録を防止することができる制度になっている。即ち「出願日前に」という確定した日限までに当業者が「考案できた」かどうかは、「考案した本人」が「証拠」を以て主張すべき事項で同じ業界内の人間であっても本人以外ではその判断はできず、まして門外漢であるべき特許庁の職員がそれを主張できる筈がない。仮に審査官の縁者などがその業界に詳しいケースにおいては、「考案の所在」の事実は察知できたとしても、その場合はその審査官は審査事務より離脱するのが当然である 従って、第二項適用の主張は、利害関係者、又は絶対クリーンな立場の者か、客観性ある物的証拠が伴わねばならない。
2 特許の対象となる「発明」は自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう(特許法第二条)。同条第三項に「実施」について規定があり<1> 物の発明、<2> 方法の発明、<3> 物を生産する方法の発明、などと大網が示されている。
実用新案の対象となる「考案」は、自然法則を利用した技術的思想の創作をいい(実用新案法第三条)、登録の要件は「産業上利用することができる考案であって物品の形状、構造又は組合せに係るもの」としており、「発明」に比し創作であっても高度たることを要しない技術的思想で良いことであり、当然既に存在し、一般に供用されている物品を組合せて作るものがその対象の内に入り、効用効果も、組合わせの要素をなしている個々の物品本来の有する効用効果より改良されればよく、それ以上に特別の効用効果がなくてもよいのである。 即ち、予期せぬ素晴らしい効用効果は「発明」では必要であるかもしれないが、「考案」には必要としない。
3 以上に関して、実用新案の性格に関する一般的文献の記述を見ると次のとおりである。即ち、
大発明を保護する法律は特許法である。
これに対して実用新案法は、小発明を保護する法律である。
小発明を保護する実用新案法は次の二つの理由から制定されている。まず第一に、我が国の産業構造は、資金力に乏しい中小企業が多く、個々では、多額の研究開発費を投資できず、したがって、大発明より小発明が多くなされる。そこで中小企業の振興のために、小発明の保護が必要になる。と同時に、中小企業の過当競争を防いで振興を図る必要がある。
もう一つは、かりに実用新案法を廃止した場合、実用新案法で保護されていた程度の小発明は、大発明を対象とする特許法の下では保護されず、拒絶されることになる。
拒絶が多くなれば、おのずから新しい技術を創作しようとする意欲を減退させてしまう。
かといって、特許法で保護する対象を小発明まで広げるとすると、発明の技術レベルが低下する恐れがある。
発明の水準を或程度高く維持すると同時に、創作意欲が減退するのを防ぐためには、どうしても特許法と異る制度を設けて、小発明を保護する必要がある。
即ち、技術思想の創作として、発明は高度であることを必要とするに対し、考案は、創作であれば十分であり、高度であることを必要としない。(第二条第一項)。そうはいっても、何が高度であるか何が低度であるか、その区別をすることは、なかなか難しい。そこで一例をあげてみよう。
鉛筆がなかった時代に、黒鉛をかためて芯をつくり丸型の鉛筆を最初に考えたとしたら、その技術的思想は程度が高い、即ち高度である、と考える。ところが、実際に使ってみると、丸型のため、机の上からコロがりやすい。そこで、形状を六角形に改良したとする。持ちやすく、すべり落ちない。この六角型にしたことによる新しい効果は程度が高い、とはいいがたい。従来品の改良型であるので、この技術的思想はチョッピリ程度が低いというわけである。したがって、このような場合、特許出願ではなく、実用新案で出願したほうが許可になりやすい。
(以上出典『実用発明六法』発明学会編 実業の日本社発行第一版二八九頁)
4 現実にどの程度の「創作」であれば登録査定を受け得ているか実例を示してみよう。
(一) 第一例として、特許庁が今回の引用例として使用した実公昭五二一四四二一〇についてみる。
これは、前述のごとくサウナ室の加熱に、空気を媒体とするため、加熱の結果自然対流を生起するヒーター(本考案では特に「対流ヒーター」と名付けているが図面等より判断すると一般の空気を加熱する単純なヒーターにすぎない。但し、以下の記述に於ては面倒を省くため一応「対流ヒーター」の名称をその侭使用する)と赤外線照射ヒーターとを併用した加熱装置である。即ち、考案の要素とじては赤外線ヒーターと空気加熱ヒーターとの二つの物品の組合せであり、その目的とするところは、腰かけ下後方に設けた空気加熱ヒーターによる加熱では加熱された空気が軽くなって対流を生起し、室内上方に高温空気が、下方に低温空気が順次存在する形でそれぞれの比重に見あった位置に層を成すごとく分布し、サウナ浴としては下部が低温となるから、この温度分布の低温域内の足部に赤外線を照射して熱不足を補償することを目的として、腰掛け下に赤外線ヒーターを設置したものである。
サウナ風呂は日本には大正中期より僅かながら輸入されおり、昭和三〇年代後半より急増し、その後国内の零細業者により模倣品の製作が行われてきており、所渭外国渡来のレジャー施設として急激に利用者が増加した。これらの施設の加熱は、空気を加熱しその空気より人体に熱を伝える形の空気を媒体とした間接与熱法のサウナストーブと、そのストーブの上に載せた鉱石(香花石又はサウナストーンという)がストーブより熱を伝えられて加熱されて発する赤外線との両者の加熱によるものであり、やはり二つの物品の組合わせで、既に公用の技術として数十年前より定着しているものである。
この公用技術と引用例実公昭五二-四四二一〇とは、「対流ヒーター」と「ストーブ」と名称は異なるが、いずれも、接触する空気に単純に熱を伝導する発熱体である物品と赤外線照射用物品との二つの物品の組合せである点で共通であり、そこに相違点はない。ただ、前者に使用の赤外線照射用物品は自然の鉱石そのままであり、ストーブの熱エネルギーを赤外線にかえるのに対して、後者は、鉱物質の焼成成形品に電熱線を埋込んだ塗装乾燥用など工業用用途に広く使われている「赤外線ヒーター」であり、内蔵した電熱線により転換した熱エネルギーを赤外線にかえるだけの相違がある程度にすぎないが、技術思想の創作として「拒絶すべき理由を発見し得ない」として登録査定を受けている。このことは、特許庁に於ける実用新案の査定の一つの「ガイドライン」としての認識を確かめ得る事項である。
この場合、ストーブと赤外線発生鉱石とを併用した加熱技術は公用技術として多年慣用されていり、かつ、その機構により加熱された空気は対流を生じ、サウナ風呂本体内の温度のバラつきは二五度ないし三〇度に達するという欠点があった旨、引用例考案の公報中に記載があるので、そのバラつきを減じ又は消滅させなければならないということは、当業者ならば容易に思いつく事柄であり、その方法として、対流作用そのものを否定又は抑制して低温域の生じないようにする基本的のものと、対症療法的に対流作用で生じたる低温域の空気を高温にしてバラつきを減ずる方法、さらに低温域の空気自体には関係なくその中にある人体の一部に局部的加熱を行って補償する方法との三つがある。このうち最も安易なる後者をえらびその加熱用具として赤外線発生の鉱石の代りに既に一般に乾燥用として、一部にサウナ用として、使用されていた赤外線ヒーターを用いたに過ぎず、客観的に見れば、当業者ならば何等創意を要する程のものではなかったものである。
しかし乍ら、登録査定を受けている現実は明白であり、これは拒絶に値すべき考案といえる形となった技術が当業者の間に出願日前に存在したかどうかを確認し得なかった、又は証拠として求め得なかった為と考えられる。
(二) 第二例として、上告人の考案、出願にかかる本号末尾の公報写にある実公昭五三-四〇三四二号をみる。
サウナの熱源として他の実施例にも使用されていると全く同じ赤外線ヒーター二組を用い、また腰かけ15を一般のものと変えて四隅の内の二隅方向に対角線上に設け、四隅の残りの二隅に主副一対の赤外線ヒーター7A8Aを配設したものである。
これは従来の形式の扉に平行方向に腰かけを配し、扉の両方の二隅と背面中央との三ヶ所に赤外線ヒーターを設ける公知、公用の技術と軌を一にしているが、腰かけを対角線沿いに設けることにより入浴者の膝の部分が赤外線ヒーターと至近距離におかれて低温火傷の発生することを防止し、又入浴者体と主熱源との距離を大きくすることで熱分布の平均化をはかるものである。即ち、右は物品の数は同じでも配置の変更により効用が改善されたから、技術思想の創作として認められたものである。
後から見れば、当業者ならば何ら創意を要する程のものではなかつたものといえようが、しかし、拒絶に値する考案といえる形となった技術が、当業者の間に出願日前に存在したかどうかについて、審査官が確認し得なかったため、公告決定となったものと考えられる。
<19>日本国特許庁 <11>実用新案出願公告
実用新案公報 昭53-40342
<51>Int.Cl.2A 61 H 33/06 識別記号 <52>日本分願 126 K 226 庁内整理番号 7017-22 <44>公告 昭和53年(1978)9月29日
<54>サウナ浴室
<21>実願 昭49-31274
<22>出願 昭49(1974)3月20日
公関 昭50-121836
<13>昭50(1975)10月4日
<72>考案者 出願人に同じ
<71>出願人 杉山賢一
横浜市緑区すすき野3の3の15の104
<57>実用新案登録請求の範囲
内部に電気放熱加温設置を有する水平断面がほぼ正方形でその四隅が直角、曲線、斜線等をなす形状の箱型サウナ浴室に於て、その水平断面がほぼ正方形の浴室内の相対する二隅に垂直方向に主副一対の赤外線或ひは遠赤外線又は超遠赤外線放熱装置を配し、その両装置を結ぶ対角線上に主放熱装置に正対する方向に椅子を置き、且主放熱装置の反射板の一部に反射熱線の若干を下方に反射するための斜めの反射部を設け、又サウナ室内面の床或ひは側壁、出入口内面等に反射板とその保護具をえた箱型電気式サウナ浴室.
考案の詳細な説明
本考案は一般に家庭用サウナ浴室として使用されている水平断面がほぼ正方形で高さが横幅より大きい出入口扉つき箱型電気サウナ浴室に関する。
以下図面についてその実施例を説明する.第1図はその外形斜面図で本考案に係る主副一対の赤外線又は遠赤外線若くは超遠赤外線(以下これらを総称して単に熱線という)の放熱装置7、8を垂直に、出入口扉側の一隅とその対角線上に相対する一隅とに向き合うように設け、その対角線上に於て主放熱装置7に入浴者が正対して腰かけ得るような方向に椅子15を置き、浴室側壁内面に反射板9、10、11を、床面に反射板12を、また出入口扉5の内面に反射板13を備えたるサウナ浴室の一実施例を示す.第4図はその水平断面図で、そのイーイ垂直断面図を第2図に、ローロ垂直断面図を第3図に示す.
即ち入浴者は本浴室に通電したるのち出入口扉5を開けて入り椅子15に腰かけ扉を閉ぢる.主熱線放熱装置7は本例では出入口扉側の一隅に垂直に、入浴者の肩から腰の高さ位に設けられ入浴者の前面部に熱線を放射する.反対側の副熱線放熱装置3はこれに相対する一隅に同様に設けられ入浴者の背面部に熱線を放射する.主側面放熱装置とほぼ同じ高さの浴室側壁1の内面に反射板9、10、11を設け、その保護枠14A、14B、14Cを備えて入浴者の肌が触れないようにする.
また床3の上面に反射板12を設けその上にふみ板4を数板間隔をあけて備える.出入口扉5の内面に反射板13と保護枠14Dを設ける.
これら9、10、11、13の反射板は主副放熱装置の熱線を反射して入浴者の身体の周囲をムラなく照射し反射板12による足、足等への隔射と相まつて効果的な放射加熱を行う.
この主副一対の放熱装置に於て主放熱装置に遠赤外線又は超遠赤外線を、即放熱装置に赤外線又は遠赤外線というように放射線の種類を違えて装置してもよい.
第5図は本装置に使用の熱線放熱装置の構造を示す.熱線放熱管7Aより出る熱線は大部分ほぼ水平方向に直接又は曲面反射板7Bの反射で放射されるが、一部分は上下方反射部7Cの7C″及び7C′の二面で下方及び上方へ反射される.この場合7C″の反射面積を広くして下方への反射熱線量を大きくして足部を十分温めるようにする.7D、7Dは前面の保護枠である.
各図とも簡略上、電気配線及び制御機構の表現を省略した.
第6図は高さを低くし、上部に首出孔を設け、入浴者が椅子に腰かけて首を出せることくした首出し型サウナに応用した実施例を示す.
第7図は上面よりみたときの四隅を曲線部とした例、第8図は同じく四隅に斜線を使用して隅をとつた例で、何れも本案実施例に属する.
以上のように本考案は箱型の浴室内の加熱装置の効率的配列組合せと放熱装置の反射面の構造に係わるもので、サウナ浴の効果は広く大衆に親しまれて居り之に加えて低廉にして有効適切なる装置が提供せられることになり国民福祉向上のため本考案は多大に裨益するものである.
図面の簡単な説明
図面は本考案の実施例を示すもので、第1図は各装置等の配置を示す外形斜面図、第2図は第1図及び第4図のイーイ垂直断面矢視図、第3図は同じくローロ垂直断面矢視図、第4図は水平断面図、第5図は熱線放熱装置の一部破断側面図、第6図は首出し型サウナに応用した本案実施例の外形斜面図、第7図は四隅を曲線部とした実施例の平面図、第8図は同じく斜線を用いた実施例の平面図である.
各部の記号は次の通り A……箱型サウナ室本体、B……首出型サウナ室本体、C……隅丸箱型サウナ室本体、D……隅取箱型サウナ室本体、1……サウナ室本体側壁、2……サウナ室本体天井、3……サウナ室本体底部、4……サウナ室本体底部ふみ板、5……サウナ室本体出入口扉、6……サウナ室本体出入口扉窓、7……主熱線放熱装置、7A……熱線放熱管(主)、7B……主熱線反射板、7C……熱線上下方反射部、7D……主熱線保護枠、7E……熱線放熱管保持具、8……副線放熱装置、8A……熱線放熱管(副)、8B……副熱線反射板、9、10……熱線反射板(方)、11……熱線反射板(正面)、12……熱線反射板(底)、13……熱線反射板(扉)、14、14A-C……熱線反射板保護枠、15……椅子、16……扉開閉把手、17……番、18……首出孔、19……張板.
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
第6図
<省略>
第7図
<省略>
第8図
<省略>
(三) 第三例として、本号末尾の公報写にある実公昭五二-一一六四〇号についてみよう。
サウナの循環式空気加熱装置に於て、その内部に於て発熱体で加熱された空気を在来型熱風発生機の吹出側に多数の孔18と熱風拡散部24とを設けて熱風を広範囲にわたって吹出すものである。
空気を加熱すると対流を生じて室内温度分布が上高下低となるため、空気を循環加熱する技術は存していた。しかしその循環加熱機構のひとつとして使用されていた発熱体とファンとガイドと一か所の熱風吹出口との物品の組み合わせを、発熱体、ファン、ガイドのほかに熱風拡散部を増やしまた熱風吹出口の数を増やした物品の組み合わせとしたものである。即ち、後から批判すれば、当業者ならば何ら創意を要する程のものではなかつたものといえようが、しかし、拒絶の理由として適切な証拠が発見できなかったため、公告決定されている。
<31>Int.Cl.3A 61 H 33/06 <32>日本分類 126 K 226 <19>日本国特許庁 <11>実用新案出願公告
昭52-11640
実用新案公報 庁内整理番号7017-22 <44>公告 昭和52年(1977)3月14日
<54>ボツクス形サウナ風呂
<21>実願 昭48-109004
<22>出願 昭48(1973)9月17日
公開 昭50-54341
<43>昭50(1975)5月23日
<72>考案者 森鶴雄
伊丹市伊丹字古城下1ユニゾン株式会社内
同 岩瀬弘治
同所
同 城上富男
同所
<71>出願人 ユニゾン株式会社
伊丹市伊丹字古城下1
<74>復代理人 弁理士 鈴江孝一
<37>実用新案登録請求の範囲
ボツクス内に熱風発生器を収容してなるボツクス形サウナ風呂において、空気吸込口を設けた器体と、この器体の前部に比較的広い範囲に亙つて穿設された多数の熱風吹出孔と、上記器体内に収容された発熱体と、この発熱体の後方に設けられたフアンモータと、上記発熱体の前方に設けられ発熱体によつて加熱生成された熱風を上記熱風吹出孔の全域に拡散する熱風拡散部とからなる熱風発生器を装備してなることを特徴とするボツクス形サウナ風呂.
考案の詳細な説明
この考案はボツクス内を熱風発生器により循環される熱風を介して高温に保ち、利用者に発汗作用を与えるボツクス形サウナ風呂の熱風発生器の改良に関する.
従来のこの種のボツクス形サウナ風呂の熱風発生器は第1図に示すように、前面の中央部に熱風吹出孔1を設けた器体2内に発熱体3を収容し、この発熱体3の後方にフアンモータ4を設けるとともに、このフアンモータ4と発熱体3との間にガイド体5を設けてなり、フアンモータ4よりボツクス内に吹出している.このように従来では熱風発生器の前面の一部に設けた熱風吹出孔1からのみ熱風が集中して吹出されるから、ボツクス内における熱循環がうまく行なわれないとともに、その熱風吹出口1附近に手足を近づけると、熱風により火傷をするおそれがある.
この考案は上記従来の欠点を改善するためになされたもので、その目的とするところは、熱循環がよいとともに、安全なボツクス形サウナ風呂を提供することにある.
以下、この考案の一実施例を図面に従い説明する.図中11は耐熱性を有するパネル板を組立ててなるボツクスであり、このボツクス11は前面に12からなる出入口を設ける.そして12の上部に窓13を設ける.14は上記ボツクス11内の後部に取付けられた椅子であり、この椅子14の下に熱風発生器15が設置されている.
次にこの熱風発生器15を第3図により詳述すと、16は熱風発生器15の器体であり、この器体16は後部に空気吸込口17を設けるとともに前部には前面板全体および両側面板前部に亙つて多数の熱風吹出孔18を穿設する.そして上記器体16内の中央よりやや前方にニクロムヒータからなる発熱体19が設けられ、この発熱体19の後方にフアンモータ20が設置されている.そしてこのフアンモータ20と発熱体19との間には、フアンモータ20側が漏斗状の風受入部21をなし、かつ発熱体19側が直状の風送出部22をなしたガイド体23を設ける.24は上記発熱体19の前方に設けられた熱風拡散部であり、これは金属板をV形に折曲げ形成し、その頂部を発熱体19の前面中央部に近接させてなるものである.
次に、上記一実施例の作用を説明する.まず、熱風発生器15に通電すると、発熱体19が発熱するとともに、フアンモータ20が回転駆動する、そうすると、空気吸込口17より吸込まれた空気はフアンモータ20によつてガイド体23を介して発熱体19の後面に向つて均一に送られる.したがつて発熱体19に空気がむらに当ることがない.そしてこの空気は発熱体19を通り抜ける際に加熱され熱風となり、拡散部24を介して熱風次出孔18よりボツクス11内に吹出される.この際において、発熱体19の前面より吹出される熱風は拡散部24に当り、乱流状熊となり全熱風吹出孔18から吹出されるので単位面積当りの吹出量は少なくなる.そしてボツクス11内に吹出された熱風は循環してボツクス11内を高温にする.この際においても広い範囲に亙る熱風吹出孔18から吹出されるから循環状態もよくなる.そしてボツクス11内が適温まで上昇してから、利用者が12よりボツクス11内に入り発汗作用を受ける.
この考案のボツクス形サウナ風呂は、以上のように熱風発生器の発熱体と熱風吹出孔との間に熱風拡散部を設けて、熱風を広範囲に亙つて拡散し、これを多数の熱風吹出孔から吹出すようにしたから、熱循環が良好であるとともに、単位面積当りの吹出量も少なくなり、手足を熱風吹出孔近傍に近づけても火傷をすることがない.
図面の簡単な説明
第1図は従来のボツクス形サウナ風呂に使用されている熱風発生器の横断面図、第2図はこの考案の一実施例の縦断面図、第3図は同例の熱風発生器の横断面図である.
11……ボツクス、15……熱風発生器、16……器体、17……空気吸込口、18……熱風吹出孔、19……発熱体、20……フアンモータ、24……熱風拡散部.
第1図
<省略>
第2図
<省略>
第3図
<省略>
(四) 第四例として、上告人の考案、出願にかかる本号末尾の公報写にある実公昭六三-二四九〇七号をみる。
サウナの強制循環加熱に於て、入浴者の背面に二重構造の背もたれ1を設けその背もたれの二重構造部を加熱された空気の流路とし、又前面の入浴者の背に当る面と下肢部に対接する位置に加熱送風開口部9、10、11及び8Aを設け、二重構造の加熱流路と強制循環加熱機構とを備えた配置構成が技術思想の創作と認められた例である。
即ち、空気の循環加熱そのものは公用公知の技術となっているが、加熱空気の送出の方法という末端技術、即ち、物品の構造に創作性を認められたもので、後から批判すれば、当業者ならば何ら創意を要する程のものではなかつたといえもかもしれないが、当時、拒絶すべき確実な理由の発見をなし得なかったものである。
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭63-24907
<51>Int.Cl. A 61 H 33/06 識別記号 庁内整理番号 7132-4C <20><44>公告 昭和63年(1988)7月7日
<34>考案の名称 熱気浴室
<21>実願 昭55-25050 <35>公開 昭56-127742
<22>出願 昭55(1980)2月29日 <41>昭56(1981)9月29日
<72>考案者 杉山賢一 神奈川県橫浜市緑区すすき野3丁目3番地2 15-104
<71>出願人 杉山賢一 神奈川県橫浜市緑区すすき野3丁目3番地2 15-104
審査官 井上彌一
出願人において、実施許諾の用意がある.
<36>参考文献 実開 昭50-53229(JP、U) 実開 昭49-131146(JP、U)
実開 昭49-50249(JP、U)
<37>実用新案登録請求の範囲
周囲を断熱性又は低通気性部材を以て構成した密閉又はほぼ密閉可能の室または箱もしくは袋などの中空室体とその中に入浴者の着座する腰掛と空気の強制的循環加熱を行う熱源機構などとを組合せてなる熱気浴装置に於て、着座したる入浴者の腰より概ね肩の近くの高さまでの背面体に対接する垂直方向に設けられた背もたれ面の一部に送風開口部を設け、且着座入浴者の下肢部に対接して垂直方向に位置する送風開口部を設け、この両送風開口部より熱気浴室内に同時に加熱空気を送るごとき空気強制循環加熱機構と熱気送出流路機構とを備えたことを特徴とする熱気浴装置.
考案の詳細な説明
本考案は熱気浴装置の熱効率の改善と製産及び輸送等のコストの低に関する.
即ち在来の熱気浴室は木、合成樹脂等その他の断熱性の高い又は低通気性部材を以て密閉可能の室、箱、袋等の中空室体をつくりそのなかに発熱ストーブ等を置き自然の対流及び輻射を以て加熱するため熱は密閉室内の上方の空間に集まり上面よりの熱の逸失が多く且入浴者の頭又は上半身があつく時には息苦しさをえるに拘らず足などの下半身はあたたまらないという欠陥を免かれなかつた.そのため最近は加熱空気を循環して温度の平均化をはかるごとく循環加熱又は送風加熱などの熱源装置を使用するものが開発され熱効率及び健康効果を高めつつありこれらのなかには密閉室を分解組立式とし大衆用品化しているがこれらは熱源装置を別個のユニツトとしてつくり着脱自在としているため製造及び輸送コストの増大はまぬかれない.
本考案はこのような熱源装置と中空室体の構成部材との関係を改善し全体の機構の簡易をはかり以て製造及び輸送コストの低減等の経済効果と使用者の取扱の簡便性及び熱効率の向上とを達成するものである.
以下図面によりその実施例を説明する.
第1図は分解組立式の熱気浴室の一部破断部を含む全体外觀図で、このうち入浴者の坐す椅子とその背もたれを備える箱体の背面部壁体との縦断面を第2図に示す.
即ち入浴者の背面壁体1、底部3、外周部材4、出入口扉5を以て組立て構成する密閉可能の中空室体内に人の着座する腰掛2及び背もたれ5Aを設ける.また背面壁体の下方部に電動フアン13、電気加熱部14を送風流路軸が垂直となるごとく配しその送出口に接続する垂直方向の加熱空気送出流路15との両者を内蔵する.この加熱空気送出流路15は一方は着座する入浴者の下肢部に対接して垂直方向に位置する送風開口部8に連通するごとく腰掛2と同下板7との間に形成される水平方向空気流路8Aと、他方は着座入浴者の腰より概ね肩の近くの高さまでの背面体に対接して垂直方向に設けられた背もたれ面5Aにうがたれた送風開口部9、10、11などと続した上昇空気流路との両流路に連通している.
熱源装置の下方吸入口6より矢印イのごとく吸入された空気は電気的加熱部14で加熱され加熱空気送出流路15を通りスライド式ガイド12により分かたれて一方は腰掛下の水平方向空気流路8Aを経て送風開口部8より矢印ロのごとく、又他の一方は上昇空気流路を経てガイド17、18により送風開口部9、10、11より矢印ハ、ニ、ホのごとく分かれ、入浴者の足部、腰椎部、背椎部をまづ重点的に加熱した上、入浴者の体表面に沿つて流がれ加熱しつつ熱気浴室内に流入する.
即ち通常の熱気浴室に於ては密閉室内全体を熱気にてたしその中に入浴者が入つて行うための全体の加熱のための熱エネルギーは大量でまた室体表面よりの熱ロスは内部温が上昇するに従い増加するため、時間及びエネルギーの浪費につながる.しかし本考案は密閉室が常温であつてもまづ熱気流が入浴者の熱成重要部たる背、腰及び下肢等へ直通し加熱するため待ち時間を必要とせず室体表面よりの熱ロスも少くエネルギーの消費はだ僅少で十分な熱効果が得られる.
実施例では背面壁体内に空気流路と熱源装置を内蔵しているが、この流路及び熱源装置を内蔵する構造体と中空室体の背面部壁体とを分離して別個のものとすることもある.
図面の簡単な説明
第1図は本考案実施例の熱気浴室の一部破断部を含む全体外觀図、第2図はその要部である背面壁体及び腰接縦断面図.
各部に使用の記号次の通り、1……背面壁体、2……腰掛、3……底部、4……外風部材、5……出入口扉、6……吸入口、7……腰掛下板、8……送風開口部(下方)、9、10、11……送風開口部(上方)、12……スライド式ガイド、13……電動フアン、14……電気加熱部、15……加熱空気送出流路、16a、16b……電動機、17、18……ガイド、19……制御板、5A……背もたれ、8A……水平方向空気流路.
第1図
<省略>
第2図
<省略>
(五) 第五例として、同じく上告人の考案、出願にかかる本号末尾の公報写にある実公昭六三-二四九〇八号をみる。
箱型腰かけ本体上面板1と前面板3とに熱気送出口7、8を設け、その内部に同様位置に二つの熱風口19、20を有する循環式空気加熱機構を内蔵したサウナ用又は一般暖房用加熱送風機で、独立した腰かけとその内部に循環加熱機構を内蔵した配置組合せに技術思想の創作を認めたものである。
即ち、空気の循環加熱そのものは公用公知の技術となっているが、加熱空気の送出の方法という末端技術、即ち、物品の構造に創作性を認められたもので、後から批判すれば、当業者ならば何ら創意を要する程のものではなかつたといえもかもしれないが、当時、拒絶すべき確実な理由の発見をなし得なかったものである。
<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告
<12>実用新案公報(Y2) 昭63-24908
<51>Int.Cl.4A 61 H 33/06 F 24 H 3/04 識別記号 庁内整理番号 7132-4C 6783-3L <24><44>公告 昭和63年(1988)7月7
<54>考案の名称 腰かけ兼用加熱送風器
<21>実願 昭57-115580 <35>公開 昭58-25137
<22>出願 昭56(1981)8月4日 <43>昭58(1983)2月17日
前意匠出願日援用
<72>考案者 杉山賢一 神奈川県横浜市緑区すすき野3丁目3番地2 15-104
<71>出願人 杉山賢一 神奈川県横浜市緑区すすき野3丁目3番地2 15-104
審査官 井上彌一
出願人において、実施許諾の用意がある.
<>参考文献 実開 昭57-21334(JP、U)
実開昭56-50433の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(昭和56年月6日 特許庁発行)(JP、U)
<57>実用新案登録請求の範囲
発熱器と送風機とよりなる電気式加熱送風機構を内したる箱形の腰かけ兼用加熱送風器に於て、該箱形腰かけ本体を構成する上面板の後方寄りの部位及び前面板の下方寄りの部位にそれぞれ熱気送出口を設けこれら両熱気送出口にほゞ当接連通するごとき上下2つの熱風口を有する加熱送風機構を内したことを特徴とする腰かけ兼用加熱送風器.
考案の詳細な説明
本考案はサウナ室その他の主として生活空間に於ける人体加熱或ひは保温用の腰かけ兼用加熱送風器に関する.
一般に、室などの生活空間及びその中にある人体などを加熱又は保温するには赤外線等の熱エネルギーに転換する電磁波を被加熱体に照射又は輻射する方法及び空気を加熱して被加熱体の周囲を満たしその空気を媒体として熱を伝達する方法の2つがあり、それらの単独又は複合した方法により加熱用熱源より被加熱体に熱を伝える.
これまで一般的方法として熱源温度が比較的低くて済むとか熱刺激が穏和であるなどの理由で空気を媒体とする方法が多く使用されるが空気は熱せられると膨張し比重を減じ周囲空気に対して浮力を生じて上昇する性質を有する結果、室などの有限空間に於ても熱い空気は天井付近に上昇しの空気のもつ熱エネルギーが天井壁などを通じ外部に伝導されて熱エネルギーを喪失し温度低比重増加し次に上昇してくる熱空気より重くなない限り下降しない.
従て、有限空間内の被加熱体が天井部に存在ない限り加熱効率が低下するのを避けられなそのため、加熱された空気を強制的に循環して限空間の内の加熱有効空間内に圧送する方法が般に採用されているが、その圧送方法によつて率も大きく左右される.
坐位にある人体を加熱する場合最も有効な方は人体の表面から内部に熱を伝導する効率の高部位、即ち伝熱抵抗の高い皮下脂肪層が少い部即ち腰椎、背椎部位と下肢部位とに至近距離か重点的に熱空気を集中圧送しついで熱空気の浮により上部の体幹部周囲に流れてこれを加熱すごとき流れを設定することで達せられるのは明かにされている.
本考案は坐位の人の腰、背及び下肢部に対し至近距離より直接熱空気を集中圧送を目的とすもので、利用せんとする人は任意の場所にこのかけ兼用加熱送風器を固定又は移動可能に置い通電すれば同加熱送風器の上面後方と前面下方より適度の熱風が送出されてその上に腰かけてる人の腰や背と下肢と両要部に集中的加熱を行いついで身体の周辺を流れて二次的の加熱を行つて高効率の加熱を行うものである.
以下実施例を図面について説明する.
第1~3図にその正面、平面及び右側面図を、また第4図に正面図中央縦断面図を、第5図に一部破断を含む斜面図を示す.
背もたれ6を有する腰かけは上面板1、両側面板2、2、前面板3、後面板4、底面板5とより箱形に形成され、その内部空間に、ほぼ中央に電動モーター14の駆動によるシロツコフアン15とその上下に発熱体12、13を配する矩形断面の流路をもつケーシング11よりなる電気式加熱送風機構を収する.しかしてケーシングの上下両端の開口部即ち上下両熱気口19、20と腰かけ上面板後方に設けられた上方熱気送出口7及び腰かけ前面板下方に設けられた下方熱気送出口8とをそれぞれ金綱9、9を介してほぼ当接して連通させる.
いまスイツチ16の操作によりコード17を通じて電源より電気を受ければモーター15によつてフアン14を駆動回転させそれにより腰かけ箱外部の空気を後面板4に設けられた吸気口10を経てケーシングの空気吸入口18より吸込みフアンによりその空気に運動エネルギーを与えケーシング流路内を上下2方向に送りその流路内の電気式発熱体12、13の周囲を通過するとき熱エネルギーを与え流路の上端の上方熱風口19及び下端の下方熱風口20よりそれぞれ金網9、9を通つてそれにほぼ当接して連通した上方熱気送出口7及び下方熱気送出口8より腰かけ体外部に圧送する.即ちこの腰かけ体の上面板に腰を載せ背もたれに背を接している人体の腰及び背の部位に対して上方熱気送出口よりまた下肢部位に対して下方熱気送出口より至近距離より集中的に熱空気を送出する.
本考案腰かけを例えばサウナ室などの内部に置けば内部の空気を加熱して腰かけに坐した人に有効なサウナ効果を与えまたリビングルームなどの生活空間に持込めば室全体を加熱するに要する熱エネルギーに比して遥かに小量のエネルギーよつて経済的にまた短時間にで人体及びその周辺を加熱する.このように本考案は必要な場所に移動または固定して最も経済的に坐位人体を加熱し得て国民生活に寄与する所大なる腰かけ兼用送風加熱器を提供するものである.
図面の簡単な説明
第1図は本考案実施例加熱送風器の正面図、第2、3図は同上の平面、右側面図、第4図は同上の正面図中央縦断面図、第5図は一部破断を含む外斜面図.
各部に使用の記号次の通り、1……腰かけ箱本体上面板、2……同上側面板、3……同上前面板、4……同上後面板、5……同上底面板、6……腰かけ用背もたれ、7……上方熱気送出口、8……下方熱気送出口、9……熱気口金網、10……後方吸気口、11……加熱送風ケーシング、12、13……電気式発熱体、14……電動モーター、15……シロツコフアン、16……電源スイツチ、17……電源コード、18……空気吸入口、19……上方熱風口、20……下方熱風口.
第2図
<省略>
第1図
<省略>
第3図
<省略>
第4図
<省略>
第5図
<省略>
(六) 以上のごとく、身近かにある実例を拾い上げてみると、五件ともきわめて平易な技術的改善を目的として、既存のものの組合せ、或いは配置を変えて、予め予期したごとき効用効果を得ている所に夫々の技術思想の創作として登録査定を受けたものであり、この程度の改善に実用新案の公告決定のガイドラインが存在すると認められる。
第二節 上告理由第一点について
一 実用新案法はその第一条において、「物品の形状、構造又は組合せに係る考案の保護及び利用を図る」とあり、第二条に、「考案」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作をいう」と、また第三条に、「産業上利用することのできる考案であって物品の形状、構造又は組合せに係るものをした者は次に掲げる考案を除き、その考案について実用新案登録を受けることができる」とそれぞれ定めている。
そして右の除外する考案として、「出願前」に日本国内において「公然知られた考案」(公知)、「公然実施された考案」(公用)及び「日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載の考案」並びに同条第二項に「出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基いてきわめて容易に考案することができたとき」と列挙してある。
次に同法第一三条により準用される特許法第五一条には、「審査官は特許(本件の場合は実用新案となる)出願について拒絶の理由を発見しないときは、出願公告をすべき旨の決定をしなければならない」とある。
即ち、特許庁は、右第三条に掲げる四つのケースに相当する明確な考案の所在又は第四条ないし第八条に触れる理由を、審査官に与えられた「審査期間」内に「拒絶の理由」として「発見しないとき」は、出願公告すべきことを義務づけられているのである。
二 審決及び原判決の両者に、
『本願考案と引用例の技術とを対比して検討すると、両者はサウナ本体に、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂であり、熱線として赤外線を利用するものである点で一致し、ただ本願考案に於ては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対し、引用例記載の考案に於ては自然対流によるものである点で相違するものであることは当事者間に争いがない』
との、ほぼ同旨の記述がある。
しかし右記述のうち前段『熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂』であるか否かの点においては当事者間の主張は相違しており、この点については、上告理由第三点として本章第四節において改めて詳論するが、本節の理解のために、以下のとおり概略を述べる。即ち、上告人は、原審において、引用文書記号Hによって[審決書理由書第三頁第七行の『両者は・・・・・で一致しており』という説は全く誤りもしくは詭弁である。このなかの『熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置』は本願考案には含まれているが、引用例は『熱線照射用ヒーターと単純な空気加熱ヒーター』の二種類しか使用していない。
これは引用例中に『対流用ヒーター』というごとき、理科学でも、電気業界でも、サウナ関係でも通用していない字句の使用があり、何か特別な空気の流動を積極的に促すごとく誤解されやすいが、公報中の図及び説明によれば単に空気に接触して熱を与えるだけの有りふれたヒーターに過ぎず、結果として『対流現象』を免かれない所がら、正しい知識に欠ける出願人が使用したに過ぎないが、特許庁自身、出願人が巨大企業であり有資格の代理人の作成した出願ということで補正指令を出すのを怠りそのまま登録査定を行う不手際を示したものであろうが、その実態は以上の説明で十分理解できるところで、その不手際を省みることなく、あたかも業界及び一般に通用している『有意なる循環を生起する機構』をもつ『循環ヒーター』と同じと扱っていることは許せない。しかも、そのすぐ後で『本願発明においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対して、引用例に於ては自然対流による点で両者は互に相違する。』と自らひっくり返している。一体何を言わんとするのか常人には理解不能である。]と主張しているのであり、更に、又、[本件考案は、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターとの二種類の加熱機構を備えているが、引用例は熱線照射用ヒーターと単純な空気加熱ヒーターの二種類しか備えていない。従って、『一致』という文言は全く『為にせんとする詭弁』に過ぎない。この詳細は本日補正の八-一四~一五頁に詳細記戴してあり重複となる為省略する。現に、審決書の本項記載のすぐ次に、『ただ、本願発明においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対して、引用例においては自然対流による点で両者は互いに相違する』と、一致ときめつけたことの行き過ぎを自ら認めているのではないか。善意に解釈すれば、審判官のいいたいことは、『熱空気循環用ヒーター』ではなく、『サウナ室内空気の流動が伴う』事が一致すると指したかったとも推測も出来るが、引用例の単純なヒーターでは空気の比重に原因する自然対流が生起するし、これは上高下低の熱分布を作る為健康上不適当な環境であるため、本件考案ではこのような対流の生起を抑制又は否定する為熱せられた空気に『熱条件』及び『汗条件』充足(本日補正の第八-九頁)を目的として特別な流動を促すためその空気に運動エネルギーを供与している。どのように見ても『一致』ということは言えない。唯、この審決を『拒絶』に導く為に敢えて『無知』を 装って記述したとしか考えられない。]とも主張している。原判決が極めて杜撰であるという所以でもある。
三 前示原判決文後段の、『ただ本願考案においては熱空気の循環を強制的に圧送するに対し、引用例記載の考案においては自然対流によるものである点で相違するものであることは当事者間に争いはない』とあることは、明白に両考案の相違点を記述しており、両者の技術には何の因果関係もない事から、実用新案法第一三条により準用される特許法第五一条の『拒絶の理由を発見し得ない』に該当するものである。これは前記の通則Ⅲに記載の「審査のガイドライン」に徴してみても明らかである。
四 審決に於ては、続いて、
『引用例において対流用ヒーターによって暖められた空気を強制的に圧送する程度のことは、当業者ならば格別創意を要することではなく、またそれによって予測できないすぐれた効果を奏したものとも認められない。してみると、本願考案は、引用例に記載の技術に基いて当業者が極めて容易に考案をすることができたというべきであるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないものである』
といい、又、判決では、何故か、審決及び被上告人準備書面記載内容より更に一段と詳細に被上告人主張を拡大して次のごとく判示している。
『しかしながら、従来の熱気浴装置において、熱空気の循環を自然対流によっていると室内の空気の動きは緩慢となり、入浴者の身体表面の発汗蒸発作用が不充分となるという問題点があったことは前記1に認定したとおりであるところ、右課題を解決するには、加熱空気の対流を強制的に行えばよいことは当業者であれば容易に思いつくことである。そして、熱空気循環型サウナにおいて、循環をフアンモーターにより強制的に行うことが本件出願前周知の技術であることは原告の自認するところであるから、ヒーターによって暖められたサウナ室内の空気を強制的に圧送し循環させるという本願考案の構成を得ることは、当業者にとって格別創意を要することではない。また、右の構成を採用したことによって、上高下低になりがちなサウナ室内の温度分布が改善され、身体表面の発汗蒸発による体温調整機能が促進されるという作用効果が奏されることも、当業者がきわめて容易に予測し得るものであると認められる。したがって、右相違点についての審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は認められない。』
以上のごとく、原判決は、技術の詳細を知らぬために甚だ大胆な、かつ、極めて不当な判断を示しているが、判決に当たり、被上告人の主張を鵜呑みにせず技術的追試を行う位の慎重さを備えていれば、このような大きな誤判に陥ることはなかったであろうと惜しむものである。
五 右の審決及び判決に於て、本願考案の登録拒絶を正当化せんとして、審決に於ては『対流ヒーターにより暖められた空気を強制的に圧送すれば』、判決に於ては『加熱空気の対流を強制的に行えば』、という『仮想的条件設定』を加えた場合には引用例考案と本願考案とが同様のものとなるとの前提に立ち、右は『当業者にとって格別創意を要することでない』から法第三条第二項に該当する、としている。これは、本件に限っては前記通則Ⅲ例示の実用新案査定ガイドラインとは甚だ大差のある異例の取り扱いをするということであり、極めて無責任、かつ大胆な表現である。
しかしながら、この『仮想的条件設定』、即ち、右のような法第三条第二項の解釈については、次の1ないし4に指摘のごとく四点の重大な法律違反があり、成立し得ない。その四点とは、《証拠能力の欠如》《時間的条件の証明欠如》《考案の本質の誤用》《作用効果の相違》で、これらの内の何れの一つによっても法第三条第二項適用は違法となる。
1 第一点 証拠能力の欠如
法第一三条により準用される特許法第五五条によれば、『出願公告があったときは、何人もその日から二月以内に、特許庁長官に異議の申立をすることができる。異議の申立をするには、その理由及び必要な証拠の表示を記載した異議申立書を提出しなければならない』とされている。
さて、実用新案法第三条第二項は、本質的に、公告又は公開された考案が登録された場合、それにより利害関係を生ずる当業者など利害関係者が右特許法第五五条によって異議の申立をなし、その申立書に記載される「必要な証拠」の内に当業書が既に考案し実施していたごとき技術が存在していたときに、その権利保護のため登録査定を取消すことができることを前提として設けられた規定で、これは、特許庁審査官が各業界の末端の「通常の知識を有するもの」の技術水準やその動向までは把握できない場合のチェックの補完機能をなすものであり、特許法第五八条第一項により、審査官はこれらの証拠に基づいて登録査定取消の可否の決定を行うもので、当然提出された証拠は完全性を備えたものでなくてはならず、第三者の推測に伴う情況証拠ではその価値は認められなく罪悪ともなり得る。
即ち、法第三条第二項は、これに該当するべき具体的・客観的事実の存在が証拠によって認められるとき適用されるもので、審査官という特許行政官はこの点について審査をなす立場にあるのであって、決して自らが恣意にいろいろ状況を想到して得た「仮想的条件設定」を以て証拠に代えるごときことは許されない。
従って、恰も、特許行政官が、考案登録について利害関係人であるかのごとく、自らが情況証拠らしきものを捏造するのは明らかに公務員法違反である上告人は原審において、引用文書記号H(補正書・準備書面の第一一-七頁第一行ないし第一一-八頁第五行)において、次のように裁判所側に申し入れているが、無視されて、審理不尽のまま終っている。ここに、改めて主張する次第である。即ち、
審査官、審判官等が自己の勝手なる判断でこのような事が許されるということになれば悪く解釈すれば、何びとかの示唆により或いは本人の気分次第でも、簡単に拒絶の決定がなされてしまうのではないか、それでは日本の特許制度の権威は保だれなくなってしまうであろう。
法第三条第二項適用に当たっては、少なくとも次のごとき『確たる事実の裏付け』が必要である。
a 公開制度に基づいて提供を受けている明確なる情報の存在
b 出願日以降比較的短期間内の同質の出願の存在、または具体的製品の存在
c 審査官審判官自身にてその業界特に出願日当時にさかのぼり内部事情を熟知しその業界の技術従事者の技術程度や応用能力と特質を十分把握している。
以上のうちいずれかの『確たる事実の裏付け』を求める。
被告に於て同項適用を正当と主張するならばこれらの『客観的裏づけ又は証明』の提出を被告に命令されますよう裁判所にお願申上げる次第である。
2 第二点 時間的条件の証明欠如
前記の「仮想的条件設定」の第二の問題点は、当業者がいつの時点で「容易に思いつくことであった」かであり、法第三条第二項には「登録出願前に・・・考案できた」とある。
審査官の審査は出願後六年半以上、審決は同九年半以上経過した後の、しかも特許行政官が仮想的に案出した条件設定によって、「当業者が考案できた」と無理矢理いいくるめようとしても、考案できた時期の証明までは及ばなかったものと考えられる。若しその時期まで特定していたとするならば明らかな虚偽である。
公報掲載時から当業者が考案できたとする時期までに時間的ギャップがあるのはきわめて当然で、一般的に、公報に掲載される技術はその時点の最も進歩した若しくはそれに近いもので、その技術内容から直ちに欠陥を見出して次なる研究開発に進むには、社会的ニーズの急変という要因が必要であり、又、法にいう『考案の属する技術の分野に於ける通常の知識を有する者』なる普遍的技術レベルの人間が考えつき、そして法に言う「技術的思想の創作」という体系づけられた技術に仕上げるまでには然るべき期間を要することは当然である。
通常の産業界に於ては、厖大な量の公報に常時眼を通して掲載内容を確認する人間は一部の大企業をおいて他にはいない。従って、法にいう『通常の知識を有する者』というレベルの人間は公報に掲載されたものなど絶対見ていないのが実情である。一応同業者間の開発にはある程度関心をもつことはあり得る。それは商品の形ができてきたときである。多くの企業でそうであるごとく、開発段階では権利化を優先させて次々と出願をするが、登録されても時期的にもしくは販売実務的に実施化を見送られるケースが多く、そのまま有効期間が消滅してしまう場合も決して少なくない。即ち、考案として登録査定を受けても、その実施物件が商品として市場に出なければ全く人眼に触れることなく、まして同業者のチェックの対象となり得る機会はない。従って、通常の知識を有する程度のものが該考案から容易に想を得ることもない。
引用例考案は、この実施化を見送られたものの一つで、出願人企業内の一部のもの以外はその存在すら知らないという状況では、法にいう通常の知識を有する同業者間では全くその存在を承知しておらず、「当業者ならば容易に思いつく」というのは単純な希望的推測に過ぎず、責任ある立場よりなされた言辞としては無責任且不穏当である。
法第三条第二項適用のためには、『登録出願前に・・・考案できた』ことが証拠によって認められなければならない。この立証責任は被上告人(特許庁)が負うのであり、本件については全く立証されていないのみならず、むしろ、上告人提出の各証拠等によって法第三条第二項は適用されないことが明らかであるにも拘らず、原判決は、なんらの証拠に基づかずこれを認定するに至ったのであり、この違法は重大である。
3 第三点 考案の本質の誤用
考案とは、法第三条より、物品の形状、構造又は組合せに係るものとされており、単なる思いつき程度では考案とはいえない。
「加熱空気の対流を強制的に行えばよいことは、当業者であれば容易に思いつくことであり」と原判決にあるが、強制的に行うことは、審決にある「圧送」と同じで圧送のための「ファン」の装備が必要である。引用例考案は対流用ヒーターと赤外線ヒーターとのこつの物品を組合せて加熱機構を構成しているが、前記仮想的条件設定の例では、更に圧送ファンを加えた三つの物品の組合せよりなる加熱機構ということになり、第三条の本義上全然別の内容の第二の考案となってしまう。全然別の内容の第二の考案を以て出願考案の類似性を云々することは全く違法であり、従って、第三条第二項を適用し登録を拒絶することは、実用新案法第三条及び第一三条により準用する特許法第五一条に違反する。
しかのみならず、法第三条第二項においては当業者といわれる「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者」が行う考案であることが当然の姿であるが、本件の場合は特許庁行政官が創作しそれを「当業者が容易に考え付くものである」と作為的言いくるめを行っている。考案をなすものの主体も全く相違する。
4 第四点 作用効果の相違
審決及び判決にいう、「対流ヒーターにより暖められた空気を強制的に圧送する」とか「加熱空気の対流を強制的に行う」という仮想的条件設定例の場合に、サウナ室内の熱分布や空気の流れはどのようになるか、図上にて追試してみると次のとおりとなる。即ち、本願考案は、引用例考案は勿論のこと右仮想的条件設定例に比較しても、その作用効果の点において格段に優れていることが明白であり、これを、類似の考案あるいは当業者が極めて容易に考案することのできた考案等というのは、明白に自然科学の法則に反する不当な認定である。以下、引用例考案の説明及び添付図面、本願考案の説明及び添付図面を利用して示す。
(A) 引用例考案技術(実公昭52-44210)
<省略>
空気の流れは図の位置で反時計廻りとなる温度分布は上高下低となる
右両図において、算用数字は図面の説明に示された構成部品で、1はヒーターブロック枠、2は対流用ヒーター、3は反射板、4は足元照射用ヒーター、5は加熱装置、6はサウナ風呂本体である。
これに空気の流れの説明を付加すれば、
・2の対流用ヒーターにより加熱された空気の比重が軽くなり、生起する対流現象としてこのように上方向に移動することを示す。
・対流によって上昇した空気は上方壁面より
のごとく圧しやられる。即ち図の位置で空気の移動は「反時計まわり」である。
・最も低温で高比重の空気の滞留する低温域となる。
<注> 構造上
の流れの断面積は、 の1/8から1/10と甚だゆるやかとなり、しかも身体の前面のみに偏る。 (B) 『仮想的条件設定』(前記の実公昭52-44210にファンを加えた特許庁考案) <省略> と 算用数字記号は1より10までは前記(A)に同じ。15として圧送ファンを加えた ' 'が最も高く遂次低くなり 対流用ヒーター2に触れて熱を受けた空気は軽くなり浮力を生じて 'のごとく入浴者の背面流路を上昇し圧送ファンにより運動のエネルギーを与えられて 'の流速及び圧出力により また、下方への空気の移動は身体前面に偏るため、身体への与熱に効果の高い背部や下肢部からの熱伝達量が低く、また発汗蒸発作用に関与できる皮膚の面積も狭少でその効果は低い。 即ち、ただ「圧送ファン」を付しただけの特許庁の仮想した技術では、「ファン」を付さない場合より改善されるが対流作用の否定とはならず効果が低いことが右の図及び説明により明白である。 (C) 本願考案(引用記号D実用新案登録願添付図) <省略> <省略> 引用文書記号C(手続補正書(全文)明細書第一三頁)にあるごとく、サウナ室内壁面に熱線発生体9をとりつけ10及び単独の拡散反射板11を以て赤外線による第一次的熱エネルギーを供給し、腰掛け下に電気式熱気強制圧送循環機構12を、またそれに接合して横導管15、竪導管16を配し、竪導管の上端はサウナ室内部上方空間に開口させ、該循環機構と上方空間とを運通せしめている。 この形で循環機構のファンを作動させると、ファンの吸込圧力でその吸込側に連接した横導管、竪導管内の空気圧力が低下し、竪導管の上方開口部よりサウナ室内の天井近くに滞留してしる高温で低比重の空気をその浮力即ち対流現象を否定して上より下に吸引し循環機構に点線矢印 即ち、(A)(B)と同じ位置にて見た場合流れの方向は「時計まわり」となっているため、天井近くの高温低比重の空気は対流式(引用例考案の方式)或いは前記の仮想的条件設定例のごとく放熱により熱を失い比重を増すことではじめて入浴利用空間に到来するに比し、本願考案では、高温空気を強制的に導き更に加熱して人体周辺に送るため、熱効率も前二者に比較して格段の差で優れている。 これは加熱機構と圧送機構との他に、横導管、竪導管、指向性熱気圧送口等の一連の一指向性付与流路」を併用しているからであって、ここに電気式熱気強制圧送循環機構の機構たる所以が存する。これを物品の組合せという点からいえば、 引用例考案は対流ヒーターと赤外線ヒーターとの二物品 仮想的条件設定例は上記二物品と圧送ファンとの三物品 本願考案は空気ヒーター、圧送ファン、一達の指向性付与流路と赤外線ヒーターとの四物品 と全く構成が違っていることによるもので、特許庁が作為的に考出した仮想的条件設定例によっては、本願考案に等しい効用効果をあげることは至難であることが明確である。 5 以上、詳述したごとく、本願考案について法第三条第二項にかかる登録拒絶の理由となり得べき事実は全く存在しないにも拘らず、原判決は、同項の解釈を誤り、更に、自然科学の法則にすら反する矛盾した違法な判断をなして上告人の請求を棄却するに至ったものであり、その取消は免れ得ない。 第三節 上告理由第二点について 一 実用新案法第一五条に「実用新案権の存続期間は出願公告の日から一〇年をもって終了する。ただし、実用新案登録出願の日から一五年を超えることが出来ない」とある(なお、特許法第六七条により、特許についてはそれらが各一五年、二〇年と定められている)。即ち、法によって認められている審査のための期間は最長五年で、審査官がなす公告決定と公告されるまでの庁内手続を六ヶ月とすると、一応最長四年半ということになる。現在は、審査は出願審査請求を待って開始されるから、この期間は審査請求の日から最長四年半と考えてよい。しかし実際には、平成二年五月、日米構造協議においてアメリカ側の審査期間短縮要求(要求目標二年)に対して、日本政府、即ち特許庁長官は現行平均三年強を要しているが向こう五年間にこれを二年半程度に短縮したいと公式表明している。 二 してみると、これらのことから、審査に許容される期間は、審査請求より一般的には政府公式表明とおり平均三年強、前記法文解釈よりする最長期間の歯止めは四年半となる。しかるに、本願考案については、昭和五七年八月四日に審査請求しており、政府公式表明によれば同六〇年秋頃には、又、法により割り出される期間によれば同六二年二月頃の時点において、拒絶すべき理由を発見しないときは、法第一三条により準用される特許法第五一条により出願公告の決定をしなくてはならないのであり、それ以降に互って審査が終了しなかったことは、法に定めた拒絶すべき確定的理由を発見しなかった事実を証明するものであり、本願考案はどのように遅くとも昭和六二年二月頃には公告決定されていなければならなかった。従って、右の期間を徒過してなした特許庁の拒絶査定は法的に無効であり、担当審査官の遅滞行為は国家公務員法違反というべく、当然、これを支持した審決及び原判決も無効である。 三 即ち、前記特許法第五一条に「拒絶の理由を発見しないとき」とある『発見』の語意は、権威ある辞典によれば、 《まだ世に知られていなかった事や場所などを初めて見付け出すこと》 広辞林(三省堂) 《(まだ世の中に)知られていなかった物事を初めて見付け出すこと》 学研国語大辞典(学習研究社) 《それまで人に知られていなかったもの、現象などを新たに見付けること》 言海(小学館) 等とあるように、対象は具象的物件に限られており、本件に於ては法第三条第一項の「出願日前」の「公知」・「公用」又は刊行物記載の考案及びこれらにより、「出願日前」に「当業者」がなした考案の具象的なものの発見を、与えられた審査期間内になし得なかったときは速やかに公告手続を開始しなくてはならないのである。善意無過失の出願人が、当然昭和六〇年中には得べかりし実用新案権が棚上げとされ、権利の存続期間は出願の日から一五年即ち平成七年六月二四日迄であり、審判、高裁裁判、最高裁裁判等に無用の日時の徒費を強いられ、何人かの「権利の立ち枯れ」を狙う意図に乗ぜられているのが実情である。特許庁は法の原点に立ち返り、一日も早く公告の手続を行い、法第一六条により出願人即ち上告人に対して保証されている実用新案権者としての権利を恢復すべきであり、本件上告裁判の早期進捗により上告人の損失軽減に格別の御高配を当局にお願いしたい。 右違法な登録拒絶査定によって侵害された上告人の権利を回復するために、緊急なる法的救済を最高裁判所にお願い申し上げる次第である。 第四節 上告理由第三点について 一 東京高裁に於ける準備手続は、第一回五月一五日、第二回六月一四日、第三回七月二四日の三回あり、後日九月一一日を第一回口頭弁論期日と指定されたが、実質弁論を行われず同日結審、九月二五日判決言渡と相成った。 前節記載のとおり、本件のごとく、法第一五条により付与されるべき権利行使期間の最長は平成七年六月二四日迄とあと五年も残されていない立場の者にとっては、スピード裁判はむしろ望ましいことであったが、上告人の提起した争点である「技術点相違点の正しい評価」と「法第三条第二項の適用には具体的証拠が必要であり、それが伴わない場合の適用は違法」との主要二項目に対し、上告人は、別紙提出済書面一覧表記載の各書類を提出し詳細且理論的に説明したるに、被上告人からは、準備書面(第一回)という僅かに一葉の文書が提出されたのみで、それに対する反論の機会も与えられず結審となった。尤も、上告人は、第一回口頭弁論に備え、引用文書記号Mの準備書面を作成し本年九月六日に提出しているが、当日の弁論の席上で「弁論」の機会を与えられず、「判決に当たり参考にしますのでそれでよろしいですか」という裁判長の言葉があって、「弁論を強行することにより印象を害ね不当な結果を招来するよりは」という強権に迎合せんとする被裁者心理に陥り、右裁判長の言葉に従った事が却って裏目となった感が強い。 二 審決及び原判決の両者に、 『本願考案と引用例の技術とを対比して検討すると、両者はサウナ本体に、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂であり、熱線として赤外線を利用するものである点で一致し、ただ本願考案に於ては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対し、引用例記載の考案に於ては自然対流によるものである点で相違するものであることは当事者間に争いがない』 との、ほぼ同旨の記述がある。 しかし右記述のうち前段『熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂』であるか否かの点においては当事者間の主張は相違し、明確に争いが存在するのであり、上告人は原審の準備手続段階で、以下のごとく書面を以って詳細に主張したとおりである。即ち、[以上詳細な説明で十分理解されるごとく、審決書理由書第三頁第七行の『両者は・・・・で一致しており』という説は全く誤りもしくは詭弁である。このなかの『熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置』は本願考案には含まれているが、引用例は『熱線照射用ヒーターと単純な空気加熱ヒーター』の二種類しか使用していない。 これは引用例中に『対流用ヒーター』というごとき、理科学でも、電気業界でも、サウナ関係でも通用していない字句の使用があり、何か特別な空気の流動を積極的に促すごとく誤解されやすいが、公報中の図及び説明によれば単に空気に接触して熱を与えるだけの有りふれたヒーターに過ぎず、結果として『対流現象』を免かれない所から、正しい知識に欠ける出願人が使用したに過ぎないが、特許庁自身、出願人が巨大企業であり有資格の代理人の作成した出願ということで補正指令を出すのを怠りそのまま登録査定を行う不手際を示したものであろうが、その実態は以上の説明で十分理解できるところで、その不手際を省みることなく、あたかも業界及び一般に通用している『有意なる循環を生起する機構』をもつ『循環ヒーター』と同じと扱っていることは許せない。しかも、そのすぐ後で『本願発明においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対して、引用例に於ては自然対流による点で両者は互に相違する。』と自らひっくり返している。一体何を言わんとするのか常人には理解不能である。] (以上引用文書記号H・補正書改め準備書面第八-一四頁七行以下第八-一六頁第三行) 右のとおり、上告人は、『熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターの二種類の加熱機構による加熱装置を設けたサウナ風呂』であるか否かの点において、明確に争っているのである。更に引用するならば、上告人は原審において、 [本件考案は、熱線照射用ヒーターと熱空気循環用ヒーターとの二種類の加熱機構を備えているが、引用例は熱線照射用ヒーターと単純な空気加熱ヒーターの二種類しか備えていない。従って『一致』という文言は全く『為にせんとする詭弁』に過ぎない。この詳細は本日補正の八-一四~一五頁に詳細記載してあり重複となる為省略する。現に、審決書の本項記載のすぐ次に、『ただ、本願発明においては、熱空気の循環を強制的に圧送するのに対して、引用例においては自然対流による点で両者は互いに相違する』と、一致ときめつけたことの行き過ぎを自ら認めているのではないか。善意に解釈すれば、審判官のいいたいことは、『熱空気循環用ヒーター』ではなく、『サウナ室内空気の流動が伴う』事が一致すると指したかったとも推測も出来るが、引用例の単純なヒーターでは空気の比重に原因する自然対流が生起するし、これは上高下低の熱分布を作る為健康上不適当な環境であるため、本件考案ではこのような対流の生起を抑制又は否定する為熱せられた空気に『熱条件』及び『汗条件』充足(本日補正の第八-九頁)を目的として特別な流動を促すためその空気に運動エネルギーを供与している。どのように見ても『一致』ということは言えない。唯、この審決を『拒絶』に導く為に敢えて『無知』を装って記述したとしか考えられない。] (以上引用文書記号H・補正書改め準備書面第一一-二頁三行より第一一-三頁一一行) とまで主張しているのである。 三 以上のごとく、上告人は両者の不一致を主張し争ったが、被告側はその段階及び準備書面に於ても何等の弁明も主張の補強もなさない。にも拘らず、原判決において審決文をそのまま引用転載していることは、杜撰の極みであり、全く「審理不尽」の一語に尽きる。 確かに、原審第二回準備手続調書には、「審決の一致点および相違点の認定は認める」と記載されてはいるが、上告人は、原判決が云うような意味で右「審決の一致点および相違点の認定は認める」などと云ったことはない。このことは、上告人が原審において提出している前記各書類記載の内容からして極めて容易に推測できることであろう。現に、同調書においても、右記載の三行後に、「本願考案は・・・・・電気式強制圧送循環機構を設けて熱空気の循環を強制的に圧送したものであり・・・・・」と記載されており、このことは、本願考案が、引用例考案の依拠する自然対流についてこれを強制的に行うこととしただけの考案ではないことを、明白に示しているのである。原判決は、畢竟、右の『電気式強制圧送循環機構』について全く理解せず、もしくは故意に曲解して、「審決の一致点および相違点の認定は認める」などという違法な調書の記載をなしたものにほかならない。このようなことは、一面において、原審裁判所は、訴訟手続きに疎い素人を、いわば騙し討ちにしたに等しいと評されてもやむを得ないのであり、到底許されることではない。 日本国民として、最後のよりどころである最高裁判所において、右の違法を正していただきたいと切望する次第である。 第五節 上告理由第四点について 一 原判決は次のとおり判示している。 [しかしながら、従来の熱気浴装置において、熱空気の循環を自然対流によっていると室内の空気の動きは緩慢となり、入浴者の身体表面の発汗蒸発作用が不充分となるという問題点があったことは前記1に認定したとおりであるところ、右課題を解決するには、加熱空気の対流を強制的に行えばよいことは当業者であれば容易に思いつくことである。そして、熱空気循環型サウナにおいて、循環をファンモーターにより強制的に行うことが本件出願前周知の技術であることは原告の自認するところであるから、ヒーターによって暖められたサウナ室内の空気を強制的に圧送し循環させるという本願考案の構成を得ることは、当業者にとって格別創意を要することではない。また、右の構成を採用したことによって、上高下低になりがちなサウナ室内の温度分布が改善され、身体表面の発汗蒸発による体温調整機能が促進されるという作用効果が奏されることも、当業者がきわめて容易に予測し得るものであると認められる。したがって、右相違点についての審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は認められない。] しかし、『右課題を解決するには、加熱空気の対流を強制的に行えばよい』、そして、本願考案が、結局のところ、右の『加熱空気の対流を強制的に行う』だけの考案に過ぎない、とするのは、なんらの証拠に基づかない原審の全くの独断である。 原判決は、誠に言辞巧みに、争点の主題をすりかえて被上告人偏向の結論を導いたものであり、極めて不公正、かつ、慎重さを欠いた判決である。 なんとなれば、争点の主題は引用例考案と本願考案とのそれぞれ全体の技術的相違点であって、両考案の一部分の「加熱ヒーター」の比較だけではない。 即ち考案とは法第三条に定むるごとく「物品」の形状、構造又は組合せによって構成されるものであって、その要素となる「物品」は既に世の中に存在し、実際に供用されるものが主たる対象となっていて、それをどのような形状とするか、或いは構造とするか、もしくは何と何とを組合せるかについて極めて普通の技術思想の創作であれば十分で、「高度である」必要もなく、又、組合せの要素となる物品個々のもつ機能の合わさった或いは補完された形の効用効果を奏すれば申し分なく、法にはその効用効果の評価までの規制はない。即ち、考案の段階で効用効果を論じても現実にはその予測以下の効用しか出ないものもあり、又、反対に予測以上の効果を奏するものもあり、考案の審査の対象とすることは、当業者でもなく、また実際の生産の場に疎い特許行政官自身責任をもった評価を行う能力を備えていないからであり、仮に然るべき能力があったとしても評価を万一誤って行った場合に責任をとることができるか不明で、責任のとることのできない評価には何等価値がないからである。 二 引用例考案と本願考案との相違点は次のとおりである。 1 引用例考案は、サウナの主たる熱源に「対流ヒーター」を用い腰かけ下後方に設け、それによる加熱空気の対流生起を容認する。従って対流により高温空気は天井近くに滞留する一方、高比重の低温空気の集まる低温域内の入浴者の足に腰かけ下前方に設けた補助的熱源の赤外線ヒーターによる照射熱を与えて補う。(前記第六三頁図及び説明の通) 2 本願考案はサウナの主たる熱源として赤外線ヒーターにより身体の大部分に第一次的熱エネルギーの照射熱及び拡散反射板によりその輻射熱を与え、熱線照射の性質上本質的に回避不可能な与熱ムラを補う目的で、腰かけ下に加熱ヒーターと電動ファンとよりなる熱気強制圧送循環機構を設け、その負圧即ち吸引力によりそれに連接した横導管、竪導管、上方及び前方の二つの熱気圧送口など閉鎖構造の一連の指向性付与流路を組合せて、天井近くに滞留している対流による低比重高温空気を対流即ち浮力を否定して下方の熱気強制圧送循環機構内に導き、その中にて該高温空気に第二次的熱エネルギーと運動エネルギーとを与え、上方及び前方の熱気圧送口より空気の比重差による対流現象生起を抑制して、指向性と定常性をもった二つの熱気流としてサウナ室内に送出し、入浴者の身体の腰から背に対する方向と下肢部より身体前面、側面に対する方向との流れをつくり、身体表面にムラなく接触与熱して第一次的熱エネルギー供給ムラの補完を行うと共に、入浴者の体温調節の自律作用である発汗蒸発を促進円滑化する機能を併せて付与する。第六九頁以降参照 以上のごとくで、特許庁のいう「対流ヒーター」と「熱気強制圧送循環機構」とのみの差異ばかりでなく、加熱機構全体としてその構造も異なるのである。 即ち、引用例考案は主熱源が腰かけ下後方の「対流ヒーター」、 補助熱源が腰かけ下前方の「赤外線ヒーター」で、 考案をなす要素としては以上のこつの物品の組合せで、対流生起は容認す (C) 本願考案 引用文書記号D実用新案登録願添付図 <省略> 9 熱線発生体 10 同反射体 11 反射板 12 熱気強制圧送循環機構 13A 上方熱気圧送□ 14 前方熱気圧送□ 15 横導管 16 竪導管 る。これに対し、 本願考案は主熱源はサウナ室壁面の「赤外線ヒーター」、 補助熱源は腰かけ下後方の「電熱ヒーター」と「電動ファン」 とよりなる熱気強制圧送循環機構と一連の「指向性付与流路」で、 考案をなす要素としては以上四つの物品の組合せで、対流生起は否定又は抑制する。 3 以上のごとく、物品の構造、組合せ等何れの点に於ても技術上の明確なる差異が存して、前記第三章第一節三項の通則Ⅲ《特許庁が現実になした実用新案登録査定に於て『技術思想の創作』と認定したる『ガイドライン』の考察》中の五件の各事例に徴しても、引用例考案と本願考案とを比較するなど全く不当なる「言いがかり」的なものであるにも拘らず、原判決は、両者の考案の比較を、それぞれの考案の一部を構成するに過ぎないところの引用例考案の主熱源の「対流ヒーター」と、本願考案の補助熱源機構の内の更に一部分に過ぎない「圧送加熱機構」とを取り出して比較の土俵に乗せ、しかも「対流ヒーターにより加熱された空気を圧送すれば」という如き、本章第二節に於て「仮想的条件設定」と名づけた特許庁創作の考案を推測し、この技術を以てすれば「サウナ室内の温度分布が改善される」とし、これは「当業者であれば容易に思いつくことである」、或いは「ヒーターによって暖められたサウナ室内の空気を強制的に圧送し循環させるという本願考案の構成を得ることは、当業者にとって格別創意を要することではない」等として、法第三条第二項適用により拒絶処分とすることに違法性はないとしている。 4 しかしながら右の論旨は、前記のことく争点である考案全体の大きな相違点を看過若しくは無視して、その構成の一部の比較にすりかえて両者に相似性或いは因果関係ありとしている点に大きな誤りがある。 その上、「当業者であれば容易に思いつくことである」、「当業者にとって格別創意を要する事ではない」などということは、単に作文者の主観的推測で事実不在を言外に告白したもので、「業界に現実に働いている人々」の技術に対する能動的要因の不在を立証する形となっている。法には「考案できたとき」とあり、出願人以外の業界人が同等の考案を既に成立させていたのならばその保護のため登録を制約せんとするのが立法の本旨と解釈されるが、「容易に思いつくことである」「格別創意を要することではない」と、「考案できたとき」との間には「事実の存在を証明なし得る」か否か、零と実数とのごとく無限大ほどの懸隔がある. 判決がそのような法律の違法適用を看過している点、審理不尽にもとづく拙速との評を受けても己むを得ないであろう。 三 右の本質的指摘以外にも、原判決は、右の特許庁創作ともいうべき考案、即ち前記第二節記述の「仮想的条件設定」の技術が本願考案と近いという認定(実際には引用例考案の主熱源と本願考案の補助熱源とが近いものになるという認定)の誤りに立って、法第三条第二項適用に値するとしている。 しかし同節に述べたごとく、仮に抽出した熱源の比較でなく考案全体の比較としたとしても、同法条適用を不当する四点の事由が存在する。いささか重複となるが重要点であるためその要点を繰返すと、<1>「証拠能力欠如」、<2>「時間的条件の証拠欠如」、<3>「考案の本質の誤用」、<4>「作用効果の相違」で、原判決に於てかかる重大なるミスを行うに至ったのは、原審裁判所が、被上告人特許庁の申し分が、恰も本願登録により利害関係を生ずる当業界の利害関係者の利益を代表するかのごとき当業者の立場に立って作為的に拒絶査定を合法化せんとする行政官として誠に適性を欠く内容であるにも拘らず、これを匡すことも、重要な技術的追試をもなさなかった怠慢によるものであり、司法の権威に鑑み国民として甚だ遺憾至極の点である。 前記の四点は重要事項であるためその要点を再度主張する。 1 第一点 証拠能力の欠如 法第三条により登録を受けられない考案は、公知、公用、刊行物掲載考案に該当するもののほか、これらの考案から「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有するものがきわめて容易に考案をすることができたとき」とあり、これらに該当するというのであるならば、その根拠を具体的に立証されなくてはならない。 即ち考案が公告されたときは何人にても異議申立をなすことができることを特許法第五五条で定める。審査官はこの異議申立書に記載された理由を、同時に提出される証拠に徴して決定するのであるが、その証拠として前記の「仮想的条件設定」として記載された内容程度のものしか提出されなかったときに、これを有力な証拠として採用し拒絶査定を行うかどうか、また行ったとしても行政官として十分なる職能を果たし得たといえるかどうか? 新憲法になり、刑事訴訟事件に於ても「疑わしきときはその不利益としない」との原則が国民的合意で成り立っている民主的国政下に於て、「問答無用」「斬り捨て御免」式の封建的酷政の残滓の「状況証拠」が通用し得るのか、またその「情況証拠」は行政官が創作(といっても捏造)したものならば司法が認めるのか? 況や、その「情況証拠」が被告側の行政官が一方的に創作したものであれば、客観的証拠能力はないのが当然とするのは国民的良識である。その上考案全体の比較ではなく、その構成要素の物品中の一部のものの相違もしくは類似だけを問題として取り上げたに過ぎないのでは、論として成り立たないのではないか。 以上は、一審決取消事件にとどまらず今後の我国特許制度にとり極めて重大なる影響の尾を引く事件であり、最高裁判所の慎重な取扱が必要であろう。 2 第二点 時間的条件の証明欠如 法第三条第二項においては、『出願前に』と時間的限定が明確に記載されている。同条第一項の公知、公用、刊行物掲載等については、その証拠となる物件の日付なり存在証明など出典を明確に証明できる。即ち、できる所に証拠価値が存する。 しかるに、前記「仮想的条件設定」例の考案が「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有するもの」にとって考案できたとする時期はいつか、これを現実に存在を証明する「もの」を伴わなければ特定できない。単なる推測のみによる「情況証拠」では決定的要件である時間の証明がない。 即ち証拠価値が全くない。 3 第三点 考案の本質の誤用 前記のごとく考案は「物品の形状、構造又は組合せ」である。 本件の場合は物品の組合せとその配置即ち構造が主題である。 被上告人(特許庁)は、引用例考案に圧送ファンを加えただけの技術的思想を「仮想的条件設定」例として特許庁創作考案をつくり、この程度は「当業者ならば特に相違を要しない」として本願考案の創作性否定の足がかりにせんとしている。 このように、引用例の構成物品の数は主熱源、補助熱源各一の合計二から、次の構成即ち「仮想的条件設定」に於ては物品を一つ増加して三とし、それを以て本願考案の構成物品の数、主熱源一、補助熱源三の合計四との差異を否定しようとすることは、これら物品の配置をも包含されるため、物理的な客観判断により「無理難題の言がかり」にほかならない。 しかのみならず、法第三条第二項においては当業者といわれる「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者」が行う考案であることが当然の姿であるが、本件の場合は特許庁行政官が創作しそれを「当業者が容易に考え付くものである」と作為的言いくるめを行っている。考案をなすものの主体者が全く相違する.このようなものに証拠能力が全く認められないことは勿論、行為自体法秩序を無視した重大行為というべきである. このようなものに証拠能力はない. 4 第四点 作用効果の相違 原判決は「加熱空気の対流を強制的に行えばよい」としているため、第二節にも述べた如く(A)「引用例考案」、(B)「対流を強制的に行う特許庁考案」と(C)「本願考案」との三者の比較を図面を以て再現してみる。 (A) 引用例考案技術(実公昭52-44210) <省略> 対流ヒータで加熱された空気は対流現象で浮力を生じて のように上昇し上部壁面より放熱し比重を増しまた後から送られてくる空気の圧力で らに熱を失い比重を増して 低温空気内の足部に赤外線の放射を行い熱の補充をする 空気の流れは図の位置で反時計廻りとなる温度分布は上高下低となる (B) 『仮想的条件設定』(前記の実公昭52-44210にファンを加えた特許庁考案) <省略> 対流ヒータで加熱された空気は対流現象で浮力を生じて のように上昇し ファンの吸引力でファンに吸込まれて運動エネルギーを与えられ上及び側方に圧送されその間に上部壁面より放熱し比重を増しまた後から送られてくる空気の圧力で 低温空気内の足部に赤外線の放射を行い熱の補充をする と 空気の流れは図の位置で反時計廻りとなる (C) 本願考案(引用記号D実用新案登録願添付図) <省略> 入浴者身体には壁面前方両側の熱線発生体と反射板9、10及び拡散反射板11により正面及両側面より赤外線を照射することで主たる熱(第一次的熱エネルギー)を与える。熱線照射は空気を伝熱の媒体としないため熱効率が高いことによる。 腰かけ下の熱気強制圧送循環機構12内のファン19が作動をはじめると連接する閉鎖構造の横導管15及び竪導管16内に負圧即ち吸引力を生じ竪導管の上方開口部よりサウナ室上方に滞っている対流による低比重高温空気を対流現象を否定して下部に矢印 このような加熱空気の循環が行われて、健康的安全性の高いサウナとしての熱分布(熱条件)及び発汗蒸発促進性(汗条件)の両条件が十分満足させ得る。 この加熱機構構成は、20 発熱体(ヒーター) 19 ファン 15、16、13、14 の一連の指向性付与流路 9 熱線発生体(赤外線ヒーター) の四つの物品の組合せと、本考案の独自の配置構成を整えた技術がもたらした効用効果である。 即ち以上(A)(B)(C)を各図面により詳細比較してみると、判決にて採用した(B)特許庁考案の技術にしても、対流現象による熱分布の改善は完全ではなく、又、発汗蒸発もその接触皮膚面積が違うため大きな差が生ずる。従って、効用効果の面よりしても(B)と(C)とが同じ技術とはいえず、法第三条第二項適用を強行せんとしてもこれ程大差があっては良識ある人は何人でも首をかしげざるを得ない。 これは(A)の引用例考案の本質は対流生起を前提とした空気加熱より出発しているのに対して、本願考案の本質は赤外線輻射より出発して対流否定又は抑制の空気加熱を併用して相互補完を図った点で根本的に技術思想が相違するものであり、引用例考案のごとく、公用技術の一部改良程度(逼則Ⅲ参照)のものと、発想の基となる技術の厚味に大差があることに因る。 四 原判決は、相違点の判断について、「右課題を解決するには、加熱空気の対流を強制的に・・・・・・・・・・容易に予測し得るものであると認められる」との論旨より、「したがって、右相違点についての審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は認められない」とされているが、以上、本節第二項、第三項に於て詳細明確化したるごとく、特許行政官が本来の立場を離れて仮想的創作をなした不実の事由を証拠として、本理由書第三章第一節の通則Ⅲ《特許庁が現実になした実用新案登録査定において『技術思想の創作』と認定したる『ガイドライン』の考察》に例示された一般の出願に対するより遥かに高度の障害を本件に限って設けて、法第三条第二項により本願考案の拒絶査定を正当化せんとしたことを見逃した判決であり、このような軽率な判決がこのまま残るとなれば、本上告人ばかりでなく日本の特許制度に関心を寄せる広範な国内外の有識者の批判の的となり得るであろうことは論を俟たない。 第四章 総括 一 本件は、上告人の出願に係る実用新案登録願昭和五五年第八八一二〇号に関する昭和六三年審判第七三七七号事件について平成二年二月一日になした審決の取消請求を行った原審平成二年(行ケ)第八三号事件の判決の取消を請求するものである。 その理由は、右の審決及び判決が、本願考案は実用新案法第三条第二項によって登録できないとしたのは、被上告人において、同項適用を正当とする「事由の存在」を明示することなく有耶無耶裡に葬り去らんとする意図を秘しているにも拘らず、原判決は、これを審理不尽により看過した結果重大な誤判を冒すに至ったものであることが明白であるからである。 二 被上告人が審決及び原審に於て主張の、同項適用の事由となした引用例(昭和五二年実用新案出願公告第四四二一〇号公報)の考案は、サラナの加熱に、腰かけ下後方に設けた「対流ヒーター」によって所在の空気を加熱し、加熱された空気が生起する対流作用即ち浮力によって上昇する空気の移動及び該空気が上方壁面等より熱を外部に放出して冷却し比重を増して下降せんとする位置の変更、即ち移動など一連の流動を行うごとき空気の対流作用を完全に容認及び利用し、その一方で該空気対流に伴う上高下低の熱分布によって生ずる下低の欠陥を補うため、一般的として考えられるごとき《下低の空気自体を暖める》・《下低の空間に暖かい空気を導く》・《下低の空間内の加熱対象物を直接暖める》という三つの方法の内より第三の方法を選び、下低の空間内の入浴者の足部を直接照射して暖めるため腰かけ下に「赤外線ヒーター」を設けたもので、これにより肩の部分と足の部分との温度差が約三〇度あったものが約一五度まで圧縮されたとしている。 しかし、この技術は、二十世紀初めより北欧を中心として盛んになった「電気サウナバス」の加熱に電気式ストーブが用いられ、そのストーブの上に鉱石(サウナストーン又は香花石)を載置しストーブの熱を伝えて加熱し赤外線を発生せしめ入浴者体に照射した「公用技術」と、軌を一にしたもので、我国には戦前に一部、昭和三〇年代より盛んに輸入又は模倣されてきている所謂「ストーブ加熱」方式の部分的改善であって、対流により生ずる下低の熱不足解決策の一つに赤外線ヒーターを使用したもので、サウナストーブ上に載置された鉱石、サウナストーンを、別の電流により加熱される赤外線ヒーターに置き換えたに過ぎないのであるが、それを腰かけ下に配置した程度のことで技術思想としての創作性を認められ登録査定を受けている。この場合、同考案の出願以前に、「対流ヒーター」と赤外線ヒーターと同等の作用を有する「鉱石」とを併用する加熱技術は公用技術として存在し、対流による上高下低の改善は業界を通じての課題であり、その傾向は、いくつかの特許、実用新案の出願、公告決定等公開された資料に於ても十分認識できる程で、敢て言うならば、「この程度のことは当業者ならば公開技術より特別の創意を要することなく考案できた」ものに過ぎないものであるが、現実には公告決定を受けている。 三 海外でも同様であろうが、日本国内のサウナ製作に於ても、「空気を暖めて人体にその空気より熱を伝える」、「空気を通過する熱線を利用して人体を直接暖める」の二つの供給方法をどのように組合わせるかが技術開発の歴史であり、またそれに関しての部分的技術で特許及び実用新案となったものも少なくない。上告人自身が得たものだけでも、引用文書記号F(準備書面(第一回))にて述べたごとく、その数は十数件に及ぶ。 即ち空気を熱すれば比重を軽くし対流が生じ入浴者の所在空間を去ってしまう、もしくは所在空間内でも頭部は必要以上に熱く足部は低きに過ぎるという現象をどのように解決するかで、一方、熱線は直進する性質と、熱源からの距離の二乗に逆比例してその温度が変わるという扱いにくさをどのように解決するか、また一口に熱線といっても〇・七六ミクロン(一ミクロンは千分の一ミリメートル)から一〇〇〇ミクロン迄の広範な波長域分布を含み、その内人体に吸収されるものは僅かの波長域のものに特定されるという難点を伴う。しかしこれを上手に利用すれば、空気を加熱する場合に比較して遥かに少ないエネルギーで済ますことが出来、また無駄になる熱が小さいということはサウナ室の製作費を圧縮できるということであり、これによる経済性は捨て難い。 四 また、昭和四八年の第一次オイルショックの影響による所謂高度成長期の終焉とその後の不況、人間性の見直し、健康生活の重要視と激しく世相が変化する中で、健康産業が台頭し、サウナもその一つに挙げられるようになり、それまで「レジャー」的要素の強かったサウナの他に健康効果の高い機能を備えたサウナに対するニーズが芽ばえるようになってきた。しかしその具体的手法については技術スタッフ不足で手のつけられない情勢が続き、ほぼ今日に至っている。 上告人は、昭和四八年東京消防庁の要請にもとづき結成された全国的サウナ製作業者団体の「日本サウナ工業会」の結成当初より専務理事として今日まで一七年以上当業界に接触しているが、いかんせんこの一七年間を通じて実存した業者も最大で二、三〇社で、参入、撤退等移動が激しく、またそれらの殆ど全部が零細業者であって、新規技術開発については意欲が乏しいため、上告人個人に於て時流を先見して新技術の開発に努力してきた次第で、本願考案もその開発技術の一つである。一般的業界の流れと同じくサウナに於ても、連続してより効率の高い機能商品を追求して行くには、「新素材」など飛躍的な進歩は望めない本質からして着実に前の技術を土台に改善を積み重ねてゆくほかなく、その為目立つた進化はなくとも技術開発は少しづつ実を結んで、社会に役立つ製品は整いつつある。 このような一連の技術開発のステップの内に於て、サウナの健康的機能要素の重要なものとして、安全且有効な熱分布という「熱条件」と、入浴中の体内代謝亢進に伴う体温調節のための発汗蒸発促進に適する環境づくりの「汗条件」との整備の必要性について技術的啓示を受け、その対応機種の一つとして本願考案を創作し、昭和五五年六月二五日に出願したものである。 尚、右の条件の必要性を提唱したのは同五七年三月に上梓出版したサウナ専門書「ベストサウナ」(副題・サウナの科学的健康効果とすぐれたサウナのえらびかた)中、或いは同五八年九月二〇日及び五九年九月一四日両日付日本工業新聞掲載の随筆中に於て行った程度であり、未だ一般社会は素より当業者の間に於ても十分認識を深めるに至っておらず、国内生産のサウナの九〇%以上は零細業者の製作にかかわる数十年間変りなき電熱ストーブと鉱石併用加熱方式の旧態依然を脱し得ていないものであることを甚だ残念とするものである。 従って、原判決の『身体表面の発汗蒸発による体温調整機能が促進されるという作用効果が奏されることも、当業者が極めて容易に予測し得るものであると認められる』とあるは、業界の事情に全く通じていない上、この汗条件は上告人以外未だ関心を持つに至っていないもので、判決がここまで暴走するに至ってはその公正中立性に大きな疑惑を抱かざるを得ない。 五 本願考案は「扱いにくさ」と「難点」のある赤外線照射によって与熱の大部分の第一次的熱エネルギーを人体に直接供給するもので、そのためサウナ室壁面二隅にその発生体を取り付け、その背面に反射板と、他の二隅に別の拡散反射体を設け可及的に照射の平均化を図り、どうしても解決できない「与熱ムラ」には対流によって天井近くに所在する上高即ち高温低比重の空気を、該空気の浮力即ち対流現象を否定して、指向性付与流路を通して腰かけ下に吸引し、それに設けた加熱及び圧送機構により更に加熱し、なお対流の生起を抑制し続けて腰かけの上面及び下前方の熱気圧送口より二つの指向性及び定常性をもつ熱気流として、入浴者の腰から背の方向と、下肢部の方向とに向けて送出して重点的与熱を行い、更に入浴者皮膚全体に沿って上方へ流れて行く間に適当な流速で人体皮膚に接触してその内部に熱を伝えると共に、皮膚面に出されてきた汗の蒸発の促進を併せて行うもので、このことにより、与熱の補完と発汗蒸発促進、即ち熱条件と汗条、件との両条件を充足するものである。 即ち、引用例考案が「対流容認の空気加熱」を主とし、対流の欠陥を「赤外線局所照射」で補う技術であるのに対して、本願考案は「ほぼ全身への赤外線照射」を主とし、輻射の欠陥を「対流を否定及び抑制した空気加熱」で補うほか、その空気の流動を「発汗蒸発促進」に併せ活用するものであり、発想の原点も相違し、配置組み合わせの構造も機能も大きな進歩性が認められるものである。 六 しかるに特許庁は、加熱機構の一部分をなすに過ぎない引用例考案の対流ヒーターと本願考案の循環加熱ヒーターとの比較に焦点をすり替えるごとき違法性を敢えて行い、引用例考案に於てもその対流によって熱せられた空気を圧送すれば熱分布の改善はできる、という特許庁考案を創り、これは当業者に於て特に創作を要しないで考えつくものである故、その特許庁考案技術と本願考案と変りないから法第三条第二項により拒絶するという異例の審決をなし、原審もこれを全面的に支持した判決を行っている。即ち、本理由書第三章第一節第三項通則Ⅲ《特許庁が現実になした実用新案登録査定に於て『技術思想の創作』と認定した『ガイドライン』の考察》に記載の事例に示されているより遥かに厳格な、寧ろ拒絶的障壁を本件に限って設定する如き陰湿且姑息なる手段は職権濫用の極みである。 しかしながら、右の特許庁考案に当る技術については、本理由書第三章において詳細解析したるごとく、 <1> 証拠能力の欠如 本件拒絶査定は、法第三条第二項にいわゆる「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、極めて容易に考案できた」ことについての客観的証拠が全く無く、特許庁行政官がその実情を全く把握することなく自己に都合よく捏造した推測に基づくものであるに過ぎない。前記本章第四項に述べたるごとく、現在に於てすら僅かに二、三〇社程度に過ぎない国内業者の九〇%以上が、数十年来変わることなき、ストーブ式サウナを製作している実情よりして特に高いと見えぬ技術水準の「通常の知識を有する者」が、特許庁のいうごとく「考案」の形にまで整えることが十余年前に出来たであろうということなど絶対にあり得ないことで、これは何人も認めるところである。このように実情無視の公文書不実記載行為をなし、その上一般的「ガイドライン」より異例の高さの障壁を特別に設けて拒絶を合法化せんとする等は、関与特許行政官が、本願考案の登録により利害関係を生ずるであろう利害関係者又はその代理人的心情よりの個人的所業とも見倣され得る不公正行為で、それを支持するに至った原判決も、その真意を看過した軽率さは責められるべきであり、取消しを免れ得ない。 <2> 時間的条件の欠如 法第三条第二項には「出願前」と明記されている。 前記特許庁考案技術(仮想的条件設定例)は昭和六三年二月の拒絶査定以後であって、今回の原判決においても「出願前」という条件は明記を避けそれを満たしていない。 <3> 考案の本質の誤用 引用例考案の構成要素となる物品の数は二つ、これに圧送ファンを加えて三つとしたものが特許庁案で、明白に考案内容の相違があり、このような都合のよい拡大内容を以て比較することは全く不当である。 況や法には「その考案の属する技術の分野における通常の知識を有するもの」所謂『当業者』とあるのであるから、右当業者のなした考案との比較が本題であるのに、その実在がないため代わって特許庁自らが創作した考案を右の「当業者」の容易にできる考案にすりかえる形で、特許庁、そして、原判決は都合のよい論旨の展開を図っている。まさに暴論というべきである。 <4> 作用効果の相違 そのように作為的に捏造した特許庁創作の考案によっても、前章に於て図解を以て詳細説明した如く本願考案と作用効果の上にて大きな懸隔があって比肩できないため技術的対抗もできていない。 という、以上四点の何れの一点にても、また考案全体の比較を避けその構成の一部構造に焦点をすり替える卑劣行為といいそれらの何れによっても法第三条第二項適用の不当性は明白である. 七 終わりに 1 以上のごとく原判決の「右相違点についての審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は認められない。よって、審決の取消しを求める原告の本件請求は失当」との結論は全く不当であり、既に主張のとおり、かような基本的に大きく誤った原判決は速やかに取消されるべきである。 2 本理由書第三章第三節に於て記述したる理由より、本願考案については特許法第五一条により特許庁は直ちに公告決定を行うべきであり、これについて、緊急救済を最高裁判所にお願い申上げる次第である。 前第七五頁記載のごとく、何人かの「権利の立ち枯れ」を狙う意図に乗せられて不当な廻り道を余儀なくされている実情をお汲取りの上主権者とは名のみとされている法治国家の国民として唯一残されている本上告審の早急且清明なる善処を衷心よりお願申上げます. 3 以上の理由によって、原審判決は全面的に不満であり、その極めて重大な違法性は、本上告人七三年の生涯の極く初期の特高警察に代表されるごとき、官尊民卑、行政当局の御都合主義・押しつけ主義などの一支流として行政官の法の乱用が派生したこととほぼ軌を一にしたものというべきで、これをこのまま黙視許容するごときことは、民主的司法制度下に於て、良心的国民の予期できない恐るべき内容をもち、特許法、実用新案法制定の精神の崩壊につながる危険思想に満ちたもので、今にして最高裁の清明なる判断を厳格に示されないときは、限りない腐敗に陥らざるをえないものと憂慮の念を大きく唱えるものである。 以上、原判決を取消し、更に相当なる御判決を求める次第である。 以上 提出済書類一覧表 引用文書記号 表題 作成日付 上告人が意図した提出の理由・目的 原審裁判所の取扱 A 訴状 平二・四・四 訴状 訴状 B 審決書 平二・二・一 甲第一号証 甲第一号証 C 手続補正書(全文) 昭五九・三・六 甲第二号証 甲第四号証 D 実用新案登録願 昭五五・六・二五 甲第二号証 甲第二号証 E 出願審査請求書 昭五七・八・四 甲第二号証 無 E1 手続補正書 昭五七・八・四 Eの付属文書 甲第三号証 F 準備書面(第一回) 平二・五・八 準備手続に対処のため、FからF5までの六件を一括して平二・五・八提出した。Fは準備書面としてF1からF5まではその付属書類として提出した。 無 F1 審判請求書 昭六三・五・二 無 F2 拒絶査定謄本 昭六三・二・二六 無 F3 実用新案公報昭五二-四四二一〇 昭五二・一〇・七 甲第六号証 F4 意見書 昭六二・一・一四 無 F5 F4付属手続補正書 昭六二・一・一四 (前記に同じ) 甲第五号証 G 準備書面(第二回) 平二・六・七 裁判所の指示によって、技術上の相違点等を明らかにして主張するため準備書面として提出した。 無 H 補正書 平二・六・一二 Gの補正文書 準備書面 I 補正書(二) 平二・六・一四 Hの補正文書 準備書面 J 準備書面(第三回) 平二・七・一七 被上告人の第一回準備書面記載の主張に対して反論するためKとともに、同日提出した。 無 K 補正書(三) 平二・七・一七 (前記に同じ) 準備書面 L 準備書面(第2号) 平二・九・六 第一回口頭弁論に備えて、H、I、Kの三件が準備書面とされていただけでは不十分と考え、準備書面として提出した。 無 付表第一 サウナに於る加熱方式の体系的分類表 (引用記号(C)手続補正書(全文)に記載及び付届表の取め) (引用記号(I)補正書(2)に添付のもの) 参考索引 明細書第3、4頁に記載した分類 分類のしかた 分類 説明 補足説明 Ⅰ エネルギーを供給する機構(メカニズム)の分類 (1)単一機能メカニズム 中空体にエキルギーのみそ供給する その中に空気があるときはに生ずる(注2) (注3)(注4) (2) 重合機能メカニズム 中空体内の空気に為エキルギーとに産生する外のの人エキルギーとのエキルギーそする. (注1) Ⅱ エネルギーを供給する方式(システム)の分類 (A)単純供給システム(単純加熱式) 一又は重合とのメカニズムして供給する (注2) (注3)(注4) (B)複合供給システム(複合加熱式又は複加熱式) 一と重合とのメカニズムそして供給する (注1) Ⅲ 人体に熱エネルギーを供給する与熱法の分類 (イ) 直接与熱法 どにより王としてする (注3) (ロ) 間接与熱法 空気又は空気ととそ与の体とする (注2) (注4) (ハ) 直間両与熱法 そ王としてこれに直接与そる (注1) 明細書第16頁に記載した体系的分析表 与熱法 機構方式 (Ⅰ)供給メカニズム (Ⅱ)供給システム (1)単一機能 (2)重合機能 (A)単純供給 (B)複合供給 (イ) 直接与熱法 有(殆ど全部) なし 有(殆ど全部) なし 但し本願考案がこれに属する (ロ) 間接与熱法 有 有 有(殆ど全部) (ハ) 直間両与熱法 有(殆ど全部) なし 有(殆ど全部) なし 注1、本願考案のもの 注2、フィンランK式等といわれる一般的のもの 注3、数年前一詩的に流行した赤外線サウナ 注4、斉官判官により引用された方式 付表第二 慣用的形態のストーブ(対流ヒーターと同じ加熱原理)による加熱とそれにより生ずる空気の移動即ち『対流』(上図)及び赤外線照射とその特質(下図) 転載文書番号18、19 引用記号(F)準備書面(第二回)及び同(I) 補正書(三)に添付の資料 天井及び壁面から室内外の温度差により伝導という形の放熱があり接する空気はその分熱を奪われ温度を低下する. 熱源より供給される熱と天井や壁面よりの放熱とが平衡したときがサウナ室の空気温度は最高になる. 第4図 一般的乾燥空気浴室内に於ける空気の温度分布と空気の移動慣用的形状のストーブによる加熱とそれにより生ずる空気の移動即ち対流 <省略> 第5図 赤外線照射とその特質 1 被照射面の単位面積当りの密度は熱源との距離の2乗に逆比例する. 2、熱源に正対する面の被照射密度を1とすると、図のごとく角θをなす面のそれはサインθ倍となり、1より小さい 3、赤外線は直進する為物体のの部分には照射が及ばない <省略> 付表第三 サウナの公用技術、引用例考案技術、本願考案技術の三者の対比 と 考案に対する審査基準実例 項目 比較する技術(考案) (A) 在来公用加熱方式(ストーブ式、フィンランド式ともいう) (B) 特許庁引用例実公昭52144210考案 (C) 審決中記述の上記(B)引用例に圧送ファン追加 (D) 本願考案 考案構成要素として組合せられる『物品』の数と種類、配置 赤外線発生用 鉱石(香花石ともいう)(ストーブ上に載せる) 赤外線ヒーター(電気抵抗発熟線と鉱石粉末加工物との一体品)(腰掛下に置く) 同上(同上) 同上(腰掛前方面に設置) 空気加熱用 ストーブ(電気抵抗発熱式)(サウナ室の一に置く) (対流用)ヒーター(電気抵抗発熱式)(腰掛下後方に置く) 同上(同上) ヒーター(電気抵抗発熱式)(左記ファン、流路と一体構成(腰掛下を中心として配置) 空気圧送用 / / 圧送用ファン(対流による空気移動の流れの中に設置) 圧送用ファン(ヒーターと圧送空気指向性付与用流路と一体構成)(腰掛下に設置) 圧送空気に指向性付与用機構 / / / 「圧送用ファン」を取納したる指向性付与用流路(吸気側は室内上方に送出側は腰掛下に開口する) エネルギー供給に伴い生起する現象 然線ふく射 鉱石より入裕者身体前面及び一側面の各上部 赤外線ヒーターより入裕者の足元に局部的に 同上 赤外線ヒーターより入裕者身体の大部分の前面、側面 対流現象生起容認 完全に容認熱分布は上高下低 室内上部より下部に向い順次低温の空気が積重なる形を形成 同上但、圧送ファンにより対流の空気移動速度は増すが対流現象は否定出来ない 加熱送出後所在の空気の抵抗により運動エネルギーを喪失する其後は対流現象を生起する. 対流現象生起の否認、抑制、拘束など / / / 対流現象の否定(ヒーターの吸気取込み)同拘束(ヒーター加熱)同抑制(加熱空気送出) 入裕者に与える効果 熱分布 頭部に逞度の加熱足部は加熱不足 頭部又は上部に逞度に加熱を行う (従って首出裕型とせざるをえない)足部の加熱は十分 本質的な対流現象が残存するが、空気の流動量の増大る分上層と下層との福度差の圧縮は可能 対流現象により天井近くにある上層高温空気を吸気し加熱の上、足に近い送出口より高温加熱空気を送出す結束上下の福度差は最小となし得る 発汗蒸発 全身皮膚表面にれる 空気の移動が少なく発汗蒸発はい、汗は済となって決下する 同上 空気の流動量が増す分改は期待出来るが身体背面の皮膚に接する空気の移動がない為かなり不充分 加熱された空気が足に向って送出され、其後身体表面に沿って上方に移動する発汗蒸発はよい 注第三条により組合せの対象となる物品の数 赤外線発生物体とヒーター(ストーブ)との2種類 赤外線ヒーターとヒーター(対流用)との2種類 上記二種類 と圧送ファン との計 三種類 「赤外線ヒーター」と「ヒーター」「圧送ファン」「指向性付与用流路」の者一体機構の「空気強制循環加熱機構」との計4種類 考案に対してなされた「技術思想の創作」としての評価及び審査基準実例 / 鉱石の代りに鉱石粉加工品の赤外線ヒーターを腰掛下に配した程度のことが、物品のや数は同じでも配置のる点で技術思想の創作と評価されている 「圧送ファンという新たな物品が加えられる為物品の組合せとしては二種類から三種類となり、その為上記考案(B)とは別価の考案となる 上記考案(B)(C)に対し「圧送ファン」「指向性付与用流路」等別価の物品が増て計四種類となる.って上記両案とは完全に別価なる考案である. 実用新案公報 <省略> <省略> 実用新案公報 <省略> <省略> 実用新案公報 <省略> 実用新案公報 <省略> <省略>及び
の空気の移動速度はとの空気の温度差は(A)の場合に比べ圧縮されるが、対流現象が容認される限り上高下低の温度分布は残る空気の流れは図の位置で反時計廻りとなる'
'の空気の温度は'が最低であることには前記(A)と同じ傾向を示す。'の方向に圧し出される。この場合、圧送ファンの吸引力により
'の流速は前記(A)と比較し大きくなるが、対流ヒーターの加熱体と空気との接触時間が短くなり一回転ごとの与熱量は低くなり循環回転数と与熱量とを乗じた「エネルギー」の総和は(A)も(B)も同じである。従って肩の部分の空気温度と足元との温度差は圧縮されるが、常に高温空気が最上層に、低温空気が最低層に位置する熱分布には変りはない。
へ さ
のごとく低部に沈む へ さらに熱を失い比重を増して
のごとく低部に沈むとの空気の温度差は(A)の場合に比べ圧縮されるが、対流現象が容認される限り上高下低の温度分布は残る